陸上のダイヤモンドリーグ第13戦のベルトクラッセ大会が8月30日、スイス・チューリッヒで開催される。形の上では次のブリュッセル大会(9月7日)が最終戦だが、今大会でも17種目が年間最終戦になり各種目のツアーチャンピオンが決定する。ロンドン五輪金メダリストが13人、メダリストは40人が出場。各種目でオリンピックさながらの激闘が繰り広げられる。

 記録的に最も期待できるのは男子800メートルのデービッド・ルディシャ(23=ケニア)だ。ロンドン五輪ではスタート直後から先頭を走り続け、1分40秒91の世界新をマークした。勝負優先のオリンピックで、終盤失速する不安にうち勝って序盤からハイペースを貫く。「中距離の常識を覆した」とまで言われた走りだった。

 ダイヤモンドリーグでは400~500メートルまでペースメーカーがつく。ロンドン五輪の1周目通過は49秒28。今回も同じくらいの設定になると思われるが、ペースメーカーの後ろを走ることで余裕を持てる。世界記録更新の可能性は50パーセント以上か。

 男子短距離の“2強”、ウサイン・ボルト(26)とヨハン・ブレーク(22)のジャマイカコンビは対決を避け、ブレークが100メートルに、ボルトが200メートルに出場する。

 ブレークはローザンヌ大会(23日)で9秒69の世界歴代2位タイで走った。ロンドン五輪は銀メダルだったが、6月のジャマイカ選手権ではボルトにも勝っている。ボルトの持つ9秒58の世界記録はまだ難しいが、ローザンヌを上回る単独世界歴代2位で走る可能性は十分ある。

 ボルトのロンドン五輪200メートル優勝記録は19秒35だった。6本目のレースで終盤に腰の痛みが出て最後は力を抜いている。チューリッヒは過去、短距離の世界記録が9個も誕生した記録製造トラック。万全の状態なら自身の持つ19秒19の世界記録更新も不可能ではないだろう。

 女子3000メートル障害のユリア・ザリポワ(26=ロシア)もロンドン五輪では自分でペースメイクをして世界歴代3位の好記録で優勝。ストックホルム大会では9分05秒02の世界歴代2位にタイムを縮めた。条件に恵まれれば世界記録の8分58秒81を破りそうだ。

 女子100メートルはロンドン五輪金メダリストのシェリーアン・フレーザープライス(25=ジャマイカ)と、銀メダルのカルメリタ・ジーター(32=アメリカ)が出場。五輪後もローザンヌ大会、バーミンガム大会と2人は対戦し、ともに後半でジーターが逆転して2連勝している。今大会は200メートル金メダリストのアリソン・フェリックス(26=アメリカ)も参戦するので、さらに激しい戦いになる。

 ツアーポイントはフレーザーが11点でジーターが9点。最終戦は1位に8点、2位に4点が与えられる。勝った方がツアーチャンピオンにも輝く。

 女子400メートルも激戦となりそう。ロンドン五輪のメダリストが全員と、今季世界最高を持つアントニーナ・クリボシャプカ(25=ロシア)が出場する。

 本命は金メダリストのサンヤ・リチャーズロス(27=アメリカ)だ。リチャーズロスが勝ち、現在ポイント争いトップのアマントル・モントショー(29=ボツワナ)が4位以下なら、2人の得点が16点で並ぶ。同点の場合は優勝試合数の多い方が年間チャンピオンとなる規定なので、リチャーズが逆転でツアーチャンピオンになる。

 日本からは男子やり投げにディーン元気(20=早大)の出場が決まった。父親の母国で行われたロンドン五輪は10位と健闘したが、力を出し切った結果ではなかった。今大会にはロンドン五輪入賞者が5人、ディーンよりも自己記録が上の選手が6人出場する。そのうち何人に勝つことができるか。

 かねてから「ダイヤモンドリーグで世界の強豪と投げ合いたい」という希望を持っていたディーン。それが次のステップへの成長に不可欠という認識だ。4年後のリオ五輪に向けてチューリッヒからスタートを切る。◆ダイヤモンドリーグはIAAF(国際陸上競技連盟)が主催する最高カテゴリーの競技会シリーズ。今季はドーハ大会を皮切りに9月のブリュッセル大会まで全14戦が開催される。各大会の種目別優勝賞金は1万ドル(2位6000ドル~8位1000ドル)。各大会のポイント合計で争われる年間優勝者には4万ドルとダイヤモンド入りトロフィーが贈呈される。出場者はトップ選手に厳選され、ほとんどの種目が予選なしの一発決勝。緊張感あるレースが次々に行われる。また、オリンピックや世界陸上のように1国3人という出場人数の制限がない。ジャマイカ、アメリカ勢が揃う短距離種目や、アフリカ勢が多数出場する中・長距離種目などは、オリンピックや世界陸上よりも激しい戦いになる。