男子マラソンの川内優輝(25=埼玉県庁)が16日、ドタバタの出国劇を演じてしまった。18日にエジプト・ルクソールで開催されるエジプト国際マラソンに招待選手として出場する川内はこの日夜、成田を出発。ところがパスポートを自宅に忘れてしまい、航空便の変更を余儀なくされた。母美加さん(48)が届け出国には事なきを得たが、新規航空券の購入に痛すぎる約80万円の緊急出費。「公務員ランナー」らしからぬ失態寸前の出発となった。

 周囲をドギマギさせる。その破天荒ぶりは、シューズを脱いでも健在だった。午後8時50分発のエジプト航空機で出発予定だった川内は、搭乗2時間前に成田空港に現れた。だが、様子がおかしい。焦りの色をにじませながら同航空のカウンターに向かった。関係者と十数分にわたり何やら協議している。ぼうぜん自失の中、報道陣に漏らした。「やばいっす、電車が遅れていて…、やばいっす」。

 何のことやら訳の分からぬ報道陣に、こう答えた。焦りの理由はこうだ。川内は空港到着後、パスポートを埼玉県内の自宅に忘れたことに気付く。慌てて自宅に電話を入れ大至急、持ってきてもらうよう嘆願。だが成田空港に向かう公共交通機関も2日前の大雪の影響でダイヤが乱れ、出発便に間に合わないかも…。川内の「電車が遅れて…」の真相は、そこにあった。

 その後、エジプト航空関係者が善後策として、間に合わない場合は午後10時30分発のカタール航空でドーハ経由ルクソール行きの便を手配。ようやく午後8時40分にパスポートが届き、この便での離陸となった。

 出費も大痛手だ。エジプト政府の招聘(しょうへい)により招待選手としての出場で、当初の便ならもちろん無料。だが外国の別会社の航空便となれば、いくら日本で有名な川内とて自腹は当然。エコノミークラスとはいえ当日の、出発直前の購入とあり往復で約80万円。埼玉県立春日部高の定時制で事務職員として働く川内には、なんとも痛すぎる出費となった。

 無事出発できることになり、ようやく重い口を開いた川内。出費には「やむを得ないですね。自分が悪いんで」と、すっかり観念した様子だ。成田空港で演じられた約2時間半にわたる大汗のドタバタ劇には「人生で最高に焦りました」。仮に別便での離日ができなければ、マラソン出場自体が消えていたかもしれない。エジプト政府や観光局も支援する招待で、律義で真面目な公務員としては、それだけは避けたかったところ。とんだ出費も、雑草魂を持つこの男なら、今後の活躍で取り返すはずだ。【渡辺佳彦】

 ◆所要時間と運賃

 エジプト航空では、カイロ経由でルクソールに現地時間17日午前6時30分に着き、所要時間は16時間40分。急きょ手配したカタール航空では経由地のカタールのドーハからルクソールに午前9時25分に着き、所要時間は17時間55分。予定から2時間55分遅れの到着になる。

 復路は、本来のエジプト航空で帰路につくとみられる。カタール航空のルクソール発ドーハ行きの便が18日午前10時50分発しかなくレース出場後に搭乗するのは時間的に難しいため。

 また、川内は当日購入のため往復で約80万円を支払ったが、同会社の公式HPで事前に購入した場合は約14万円で手に入るチケットもある。

 ◆当初の行程

 成田を16日午後8時50分発のエジプト航空機で、カイロには現地時間の翌17日午前3時50分に到着。カイロからルクソールへ移動。翌18日午前7時号砲のエジプト国際マラソンに出場。夜には出国し19日午後6時成田着のエジプト航空機で帰国。翌20日には埼玉駅伝出場の弾丸ツアー。