両足義足の五輪陸上短距離走者、オスカー・ピストリウス被告(26=南アフリカ)が殺人罪に問われている事件で、18日付の英サン紙は、事件現場になった同被告の自宅から筋肉増強剤のステロイドが見つかったと報じた。国際オリンピック委員会(IOC)などで禁止薬物リストに入るステロイドには、暴力衝動を誘発する副作用がある。同被告はステロイド使用による精神錯乱状態で、自宅にいた恋人の女性を襲った可能性が出てきた。

 殺人容疑に問われている義足ランナーに、新たにドーピング疑惑が加わった。捜査当局の関係者は、サン紙の取材に「ピストリウス被告は自宅で深酒をしていた証拠に加え、ステロイドも見つかった。警察は同被告の薬物検査を求めている」と話した。

 同被告には、恋人でモデルのリーバ・スティンカンプさん(29)の頭部、臀部(でんぶ)、腕、手の計4カ所を銃で撃ち、殺した疑いがある。捜査当局は、同被告がステロイド使用による暴力衝動にかられ、スティンカンプさんを銃殺したとみて調べている。

 また捜査当局は、同被告の自宅で血まみれのクリケットのバットが見つかったとも明かした。スティンカンプさんの頭蓋骨は砕けていたという。同被告がこのバットで頭部を殴った可能性も含めて、捜査当局は取り調べを進めている。

 同被告は、調べに対して「強盗が自宅に侵入したものと勘違いして、恋人を射殺した」と主張しているが、ステロイド使用による精神錯乱状態で、自宅にいた恋人を強盗と錯覚したとも疑われている。近所の女性は、事件時の同被告の行動について「彼が血まみれの彼女の体を運んでいるのを見た。精神錯乱状態で、『恋人を強盗と誤解した』と叫んでいた」と警察に証言した。

 またサン紙は、同被告の三角関係も報じた。同被告の友人のラグビー選手とスティンカンプさんが仲が良いことを、同被告が不満に思っていたという。事件当時も、スティンカンプさんがこのラグビー選手から連絡を受けたことについて、同被告が激高し、事件のきっかけになったと、捜査当局はみている。

 パラリンピックで多数のメダルを獲得し、昨夏のロンドン五輪陸上400メートルに出場した同被告。殺人罪に加えてドーピング使用も疑われ、「英雄」のイメージは失墜した。

 ◆オスカー・ピストリウス

 1986年11月22日、南アフリカ・ヨハネスブルク生まれ。先天性の身体障害により生後11カ月で両ひざから下を切断。J字型ブレードの義足から「ブレードランナー」と呼ばれる。08年北京パラリンピックでは100メートルなどで3冠。

 ◆ステロイド使用の危険性

 タンパク同化(アナボリック)ステロイドには、人工的に男性ホルモン類似物質を作る作用がある。スポーツ選手が使用すると、短期間に筋肉が増強される。しかし副作用による悪影響も多く、心身の健康を保てなくなる。身体的には高血圧、内臓障害、性機能障害など。精神的には攻撃的になる、死にたくなる、妄想を抱く、気分の変動が激しくなる、など。