<東京マラソン>◇24日◇東京都庁前-東京ビッグサイト(42・195キロ)

 マラソン7回目の前田和浩(31=九電工)が2時間8分0秒で日本人トップの4位に入り、今夏の世界陸上モスクワ大会代表の座を確実にした。派遣設定記録(2時間7分59秒以内)には、わずか1秒及ばなかったが、選考会ではベスト記録の日本歴代13位。自己ベストを38秒更新し、公務員ランナー川内優輝(埼玉県庁)に実業団選手としての意地を見せた。優勝はデニス・キメット(ケニア)で2時間6分50秒の大会新記録となる。

 胸にたぎる「反骨」の2文字。鉛のような重い脚を前田はフル回転させた。残り1キロ。時計を見ると希望が湧いた。「2分55秒で行けば2時間7分台だ」。確信して飛び込んだフィニッシュで、非情の数字が並んだ。「2・08・00」。「あ~っと思った。感覚では58か59秒だった。ショックはショックです」。言葉とは裏腹に吹っ切れていた。

 安定型だが勝負に徹しきれない、飛び出す勇気に欠ける-。これまでの前田評だ。ロンドン五輪代表選考の“追試”となった昨年の今大会で、25キロ過ぎからの藤原新のスパートに自重。外国勢が飛び出すと「日本人1位争い」に身を置く自分がいた。「去年の悔しさもあるし、あえてつかないとタイムを狙えない。正直きつかったけど」と自らを鼓舞。ペースメーカーが離れた30キロからケニア勢がスパートしても、必死で食いつく。ここからの10キロは、どの10キロ刻みより速い29分57秒で押して踏ん張った。

 胸のつかえが下りた。2年前の別大で日本人トップも3位。途中から日本人1位争いを演じたレース内容を、今年の別大に出場した川内が「日本人同士の、あんな醜いレースはしたくない。何してるんだ、この人たちはと思った」と首をかしげた。実業団選手に向けた一連のメッセージは、前田の耳目にも入った。

 前田

 実業団をばかにするようなことを言ってるけど、実業団は決められた中で、公務員やプロは1人で好きにできる。スタートラインに立てば一緒なんだから仲良くやりましょうよ。ぼくらも一生懸命なんだ。

 公務員ランナーが男子マラソン界に放った矢を、反骨のバネに変えて前田は結果を出した。追随する者が続出しレベルアップされれば、2人の“場外戦”は、単なる舌戦を超えた意義あるものになる。【渡辺佳彦】<前田和浩:まえだ

 かずひろ>

 ▼生まれ

 1981年(昭56)4月19日、佐賀県杵島郡白石町出身。

 ▼経歴

 白石中3年で全中1500メートルと3000メートル制覇。白石高3年で高校駅伝1区2位(日本人1位)。00年に九電工入社。

 ▼初マラソン&世界舞台

 09年東京で2時間11分1秒の日本人トップ(2位)で、同年の世界陸上ベルリン大会39位。07年世界陸上は1万メートル17位。

 ▼自己ベスト

 5000メートル13分25秒24、1万メートル27分55秒17、ハーフマラソン1時間2分8秒。

 ▼撃沈

 ロンドン五輪代表から漏れ「『前田を選んだ方が良かった』と思わせたかった」と昨年10月のアムステルダムに出場も15位。

 ▼家族

 両親と兄1人、弟2人。

 ▼サイズ

 167センチ、56キロ。

 ◆男子マラソンの世界陸上選考

 枠は5人。(1)昨年12月の福岡国際、今年2月の東京、3月のびわ湖毎日で、派遣設定記録(2時間7分59秒以内)をクリアした日本人1位は代表決定。(2)前記の3大会に加え昨年のベルリン、シカゴ、ニューヨークシティー(中止)と今年のボストン、ロンドンの海外大会で派遣設定記録をクリアすれば代表候補となる。(1)(2)で満たない場合は(1)の3大会に今月あった別府大分毎日を加えた4大会の日本人3位以内から選考。現状で決定者はいない。