東日本大震災から丸2年を迎え、“サプライズ支援”が実現する。陸上男子100メートルの元世界記録保持者カール・ルイス氏(51)、走り幅跳びの現世界記録保持者マイク・パウエル氏(49)、3段跳びの元世界記録保持者ウィリー・バンクス氏(56)の3人が今月下旬に来日し、宮城県内で実技指導などをすることが4日までに分かった。東京が立候補する2020年の五輪につながる選手育成が目的で、岩手、宮城、福島から選抜された中高生のエリート選手たちに対し、英才教育を施すことになった。

 ルイス、パウエル、バンクス。1980~90年代に世界の頂点を極めた伝説の男たちが、被災地にやってくる。ただ、従来の支援活動とは意味合いが違う。

 ある関係者は「復興支援と言えば、これまで被災者を励ますものばかりだったけど、震災から2年がたち、新たな支援の形を考えた。永続的なスポーツ振興とは何か?

 その答えが、選手の育成だった」と言う。例えば、昨夏のロンドン五輪フェンシング団体戦。銀メダルをつかんだ宮城・気仙沼出身、千田健太の活躍にわき上がり、被災者の心は1つになった。そんな経緯から世界に通じる選手を育てること、つまり20年の五輪に選手を送り出すという考えに行き着いた。

 日本で浮上した企画に、賛同したのが「3・11」生まれのバンクス氏だった。全米陸連の理事も務め、89~91年には中京大で教壇に立った親日家。米国で「ワールドレコードキャンプ」を主宰し、ジュニア選手の育成に尽力する同氏は、日本での“特別キャンプ”を提案。自らルイス氏とパウエル氏に声をかけた。両氏と言えば、91年に東京を舞台にした世界選手権の走り幅跳びでハイレベルな一騎打ちを演じた。そんなゆかりある日本への協力を、両者は惜しまなかった。

 その内容は、まず23日に仙台市で指導者向けのシンポジウムを行い、徹底的に対話する。翌24日は会場を石巻に移し、岩手、宮城、福島の各県陸連から選抜されたエリート選手を約80人集め、そこで3氏が直接指導に当たるという。今回は陸上の基本「走る」ことがテーマ。その上で3氏が得意とする100メートル、走り幅跳び、3段跳びの3種目に絞ってアドバイスする。

 「五輪選手を育てるための根幹は、まず指導者たちの意識を変えること。ウィリー(バンクス)もそこを考えている」(関係者)。「日本復活」をテーマに掲げる20年の五輪に向け、被災地から夢のある壮大なプロジェクトが始まった。

 ◆カール・ルイス

 1961年7月1日、米アラバマ州生まれ。84年ロサンゼルス五輪で100メートル、200メートル、走り幅跳び、400メートルリレーの4種目すべてに金。88年ソウル、92年バルセロナ、96年アトランタまで4度の五輪出場。合計10個のメダルを獲得し、うち9個が金。競技人生で11度の世界記録をマーク。100メートルの自己ベストは9秒86。現役時代のサイズは、190センチ、88キロ。

 ◆マイク・パウエル

 1963年11月10日、米ペンシルベニア州フィラデルフィア出身。走り幅跳び。91年世界選手権東京大会で8メートル95を跳び、23年ぶりに世界記録を更新し、カール・ルイスの連勝を65で止めた。世界選手権で金2個、銅1個。五輪では、88年ソウル、92年バルセロナと2大会連続の銀メダルに輝き、96年アトランタは5位。現役時代のサイズは、188センチ、77キロ。

 ◆ウィリー・バンクス

 1956年3月11日、米カリフォルニア州トラピス空軍基地生まれ。3段跳び。85年の全米選手権で17メートル97をマークし、10年間破られなかった。3段跳びで助走前に手拍子を求めるスタイルはバンクスから広まったという。五輪は80年モスクワ(不参加)84年ロサンゼルス(6位)88年ソウル(6位)と3大会連続の代表。現役時代のサイズは、190センチ、77キロ。