<陸上:セイコーゴールデングランプリ陸上2014東京>◇11日◇国立競技場◇女子400メートルルリレーほか◇日刊スポーツ新聞社主催

 日本初の9秒台を狙う桐生祥秀(18=東洋大)が、金メダリストとの真っ向勝負で粉砕された。向かい風3・5メートルの悪条件で、日本人トップの5着で10秒46。優勝した04年アテネ王者ガトリンの10秒02という“世界新記録級”のスプリントを体感した。圧倒的な差を見せつけられて「全部の力を上げないといけない」と痛感。20年東京五輪の新国立競技場でファイナリストになるため、再出発を誓った。

 冷静でなんかいられない。いつも温厚な桐生が早口になった。「全部強くしたい。スタートがよくても後半やられたら意味ない。負けたくないという気持ちがイチから湧いてきた。高校1年生のような気持ち」。

 04年アテネ五輪王者に、圧倒された。好スタートを切ったが、隣のガトリンに約30メートルで抜かれた。「離れている距離がもっと短いと思った。速いな、こんなに違うんだなという感じ。この感触は久しくなかった」。逆風をついたガトリンの背中はぐんぐん遠のいた。

 優勝タイム10秒02は衝撃的な数字だ。陸上界では風1メートルで0秒1はタイムが違うとされる。向かい風3・5メートルを、記録が公認される追い風2・0メートルに換算すれば、ボルトの世界記録9秒58に匹敵するようなタイム。桐生は、衝撃スプリントを目の当たりにして「めっちゃ速い。風も関係なく、自分のレースをしていた。タイムよりも力の差が違うと思った」と口にした。

 ただ「ジェット桐生」はへこたれない。「何年かかるか、わからないけど、次は少しは追いついたり、勝負したいと思う」。4月29日の織田記念国際は右太もも裏の張りで決勝を棄権。大学進学後はスタートの改善に着手していたが、負傷後はもも上げ、ミニハードルなど京都・洛南高時代の基本練習を反復した。「基礎を積み上げて、壊れない体作りをする。全部、基礎からやる。基礎をやっていけば、速くなるかもという感覚がある。18歳だから急ぐ必要もない」と言った。

 日本初の9秒台も大事だが、最大の目標は20年東京五輪での決勝進出だ。「陸上はタイムよりも勝負なので。高校1年の時もレースで負けて、勝ちたいと思った。それと変わらない気持ち。6年後は強くなっていると思う」。最後の国立でわき上がった負けじ魂が、6年後の新国立競技場への道しるべだ。【益田一弘】