【モスクワ8日=益田一弘】桐生ジェットを取り戻せ!

 男子100メートルで日本初の9秒台を狙う桐生祥秀(17=京都・洛南高)が、新走法で明日10日開幕の陸上世界選手権で同種目予選に臨む。スタート直後の前傾姿勢を15歩から14歩に短縮する考えを明かした。4月に日本歴代2位10秒01を出した時と同じ40~50メートルの間で最高速に到達するために、大胆なチャレンジを敢行する。「負けるとかじゃなく突き進むしかない」と気合十分だ。

 わずか1歩の短縮の中に、17歳のチャレンジ精神が宿った。桐生が、世界選手権で新しい走法にトライする考えを明かした。「スタートからの前傾姿勢を14歩にしました。40~50メートルでトップスピードにいきたいので」ときっぱり言った。

 桐生は、号砲から顔を地面に向けて、前傾姿勢を保ったまま、ぐんぐん加速していく。心の中で15歩を数えて、頭を上げるのが理想の形だった。4月29日の織田記念国際では、スタートがズバッとはまって「顔を上げた時、いつもよりゴールが近く見えた」と未体験ゾーンに突入。そのまま駆け抜けて、衝撃の10秒01をたたき出した。山県ら他の日本人選手よりも10メートル手前の40~50メートルの間でマックススピードに乗る。9秒台に最も近い17歳にとって、それが最大の特徴で強みだ。

 しかし6月30日バーミンガムでのダイヤモンドリーグ7戦で狂いが生じた。初の海外レースで「焦って(歩数を)数えるまでいかなかった。10歩も数える前に頭を上げてしまった」と振り返る。加速しないまま、体を起こして10秒55で、16人中最下位に沈んだ。

 バーミンガムでの屈辱後、高校総体に向けて修正に着手した。7月31日の同100メートル決勝では10秒19をマークしたが、トップスピードへの到達は60~70メートルだった。「世界で勝負するにはここからの経験が大事だと思う。負けるとかじゃなく、突き進むしかない」。大舞台の前でも「14歩スタート」を導入。大胆不敵なチャレンジの腹をくくった。

 この日はモスクワの印象を聞かれて「家の感じも日本と違って、外国だなと思った」と初々しさも見せた。「バーミンガムはわからないことが多くて。今回が最初の海外レースではなくてよかったと思う」と屈辱を成長の糧にする構え。「14歩の桐生ジェット」を噴射させ、モスクワを一気に駆け抜ける。【益田一弘】