最強市民ランナーが、退路を断って勝負に出る。世界陸上男子マラソン代表の川内優輝(26=埼玉県庁)が、レースを6日後に控えた11日、モスクワに向け成田空港を出発した。報道陣に打ち明けたのは「進退をかけて」「死ぬ気で」「後がないつもりで」と言葉を並べた悲壮な覚悟だ。

 前夜の女子マラソンの映像に凍りついた。最高気温37度のリポート。照り返しの強い部分の温度と思われるが「涼しいから大丈夫」と楽観視していたモスクワの気候に裏切られ?

 恐怖心に襲われた。

 川内

 37度と聞いて、本当に引き締めないと。30度を超えれば、32度も34度も36度も37度も40度も苦しさは変わらない。過去に倒れたり熱中症になったりと正直、不安が多いし、恐怖と闘わなくてはいけない。

 何度も口にした「37」の数字。覚悟は決めた。恐怖を打ち消すように、速射砲の口調は続いた。

 川内

 苦しくても意識が飛ぶぐらい、動けなくなるまで、死ぬ気でやらないと37度にも勝てない。暑さに対応できなければ(2年後の世界選手権開催地の)北京とか、その次を考えなくては。進退をかけた戦いになる。今回失敗したら後がないというつもりで。

 もちろん市民ランナーとして「引退はしないし秋も冬も走る」と断った。その上で3年後のリオ五輪に向けての軌道修正、夏場にある世界大会回避に含みを持たせる発言で、迷える胸中を吐露さえした。苦節を書き記した陸上ノート4冊と「多くの期待してくれる人の思い」を胸に、モスクワ夏の陣に飛び立った。【渡辺佳彦】