京都・上京区の晴明神社が、2大会連続五輪金メダルを目指す羽生結弦(22=ANA)を支えるスポットになっている。平安時代の天文学者である安倍晴明をまつり、創建されたのは1007年(寛弘4)。1010年を経て、境内には羽生の活躍や健康を願う写真付きの絵馬があふれる。

 山口琢也宮司(57)はファンの思いを最も近くで感じてきた。「この夏には女性の方4人が『羽生選手が五輪でメダルを取れるように』と本殿に上がり、ご祈願されました」。今季のフリー曲は2季ぶりの再演となる「SEIMEI」。安倍晴明が主人公の映画「陰陽師(おんみょうじ)」のテーマ曲をアレンジして羽生自ら名付け、15年GPファイナルではSPと合わせての世界最高得点(330・43点)をたたき出した。

 神社はすでにパワースポットとして知られていたが、羽生が「SEIMEI」を演じてから絵馬の数が約1・5倍。15年7月には羽生自身が神社を訪れ、約1時間かけてじっくりと境内を回った。山口宮司はその時の驚きが忘れられない。

 「失礼な誤解ですが、当時は『スケートばかりする人なんだろう』と思っていました。しかし、晴明公について、あらかじめ非常に勉強されていたんです」

 今季のGP初戦ロシア杯前日の10月19日。絵馬に思いを記した女性3人組の1人は、わが子と同世代の羽生を応援する理由をこう言う。

 「絶対に人のせいにしないし、自分に厳しい。人としての魅力です。自分に置き換えると恥ずかしくなって、ネットでeラーニングを始めました。日常生活の活力や元気をもらえます」

 羽生は今年6月にも神社を訪れた。再演を喜ぶ山口宮司は「晴明公のイメージを非常によく体現されており、1本筋が通ったものを感じます。演じられるべくして、演じられている。羽生選手が演じることで、世界の方にも晴明公を知っていただける。私たちが祈るのは『練習の成果が100%出ますように』ということだけです」と静かに背中を押した。応援する者も、同じ目線から羽生の戦いを見守っていく。【松本航】

 ◆陰陽師(おんみょうじ) 平安時代から存在した職業。中国を元にした占星術、呪術、暦学などによる陰陽道(おんみょうどう)にたけた専門家。元は朝廷の官職の1つで、安倍晴明は代表的な人物。全ての事象が「陰」「陽」と「木・火・土・金・水」の5要素で成り立っているとする考えで、十二支などのルーツも陰陽道にある。