神奈川県藤沢市のJR辻堂駅からすぐのビルに入り、階段を上るとサーフボードがたくさん並んだ部屋があった。今回の体験取材はサーフィンだ。

 競泳選手から引退した後の自分の趣味がサーフィンということもあり、楽しみな気持ちが強かった。しかも今回はレジェンド・サーファーのドジ井坂さんの取材ということで、気分は高揚した。サーフィンは2020年の東京五輪の新種目にもなり、注目度も少しずつ向上している。

サーフィンに挑戦した伊藤華英さん(右)はドジ井坂氏と笑顔を見せる
サーフィンに挑戦した伊藤華英さん(右)はドジ井坂氏と笑顔を見せる

 待ち合わせ場所のジムスタジオにつくと、ドジ井坂さんが待っていた。黒く日焼けした肌はサーファーそのもの。「結構、身長あるねー」。気さくに話しかけてくれたことで、緊張感がほぐれた。

 オープンな性格でステキな人物だった。私は、自分から相手に緊張させないようにと思うタイプだが、今回はドジさんの方からオープンな姿勢であいさつしてくれた。年齢は今年で69歳。まったくそんな年齢を感じさせない若々しさだ。

 世界大会にも数多く出場し、日本のサーフィン界を引っ張ってきた。実際、全国プロサーフィン選手権の初代チャンピオンでもある。ラジオでのレギュラー出演の経験もあり、ビーチクラブの設立に尽力するなどアクティブであり、考え方もポジティブだ。数えられない肩書がある。「そのバイタリティーはどこからくるのか」。そんな疑問さえ湧いたくらいだった。

ドジ井坂氏は伊藤さんに立ち方を指導する
ドジ井坂氏は伊藤さんに立ち方を指導する

 さっそくビーチにいき、少し指導を受けてすぐ海に入るものだと思っていると、「じゃあまず、この器具を腰にまいて自分のバランスを確認しようか」。そこから、汗がシャツににじむくらい動いた。筋力トレーニングではなく、「骨に乗る」というアドバイス。スケボーに木の板が設置された独特の器具に立ったり、木の板のサーフボードに乗ったりした。そこで最も刺激的で魅力的な言葉があった。

 「自然の波の力を使ってサーフィンすればいいんだよ」

 サーフィンの魅力は、自然の力を利用して楽しむ“ヨコ乗り系スポーツ”。そうドジさんが言うように、私も自然の力を感じ、自分の日常に輝きをもたらしてくれるものだと感じる。そう感じてはいたものの、実際は力で水をかこうとしていた。海で行うスポーツだが、陸上でここまで向上できたことから、来た時よりも「海にいきたい」という気持ちが増した。現役中もすごく良い練習ができたときは早くレースしたいと思ったものだが、それに近かった。その指導法も無理矢理感がなく、楽しく行えた。

 「いざ海へ」ということで、トレーニング場を後にし、雨が降っていたがそんなことは関係なかった。海に入るとパドル(手で水をこぐ)の練習をし、波に乗る練習をした。陸上でした感覚が本物になる。あっという間に1時間はすぎ、新しい感覚を体験した。

 今回の取材で感じたことは、「体験することの大切さ」を改めて感じた。そして、人に何かを習うということ。新しい刺激が入ると「楽しい」「もっとやってみたい」。こんなポジティブな感情に触れることができる。出来ることをさらに、出来るようにすることも大切であり、やったことをやってみると「できた!」という気持ちのアップデートができる。

 ドジさんのオープンな人柄にも、感激した。間違いなく「ケミストリー」が生まれた。ドジさんはこれからも、たくさんの人たちをサーフィンのとりこにし、人と人の間に結束力を生んでいくのだろう。

(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)