あっという間に2021年になった。そんな感覚だ。

年が明け、箱根駅伝で駒大が13年ぶり7度目の優勝を果たした。大学ラグビーは全国選手権の準決勝と決勝が行われ、早大の連覇を阻止し、天理大が素晴らしいディフェンスとハードワークで初優勝した。また高校サッカー選手権ではPK戦で山梨学院が青森山田に勝利し、優勝した。

こんな学生スポーツの明るいニュースで、年始という感覚が少しはよみがえった。いまだ世界中がコロナ渦にあり、日本では緊急事態宣言も出された。スポーツ界も大きく揺らいだり、持ちこたえたりしている。それでも、選手、コーチ、大学、企業、メディア、さまざまなステークホルダーが「なぜやるのか」よりも、「どうやるのか」を考え、結果的に大会が開催できたことは、多くの人の努力があったからだと感じる。


今年の全国大学ラグビー選手権決勝 天理大対早大
今年の全国大学ラグビー選手権決勝 天理大対早大

こんな時代だからこそ、内なる心の部分がフォーカスされることが多くなってきたように思う。表に出てくる要素はそれぞれかもしれないが、ひとりひとりの考えや、パーソナリティーなどが色濃く出てくる時代になったのかもしれない。

もちろん紋切り型のステレオタイプに悩まされる瞬間も、いまだ多くある。冒頭に書いたスポーツの結果は、メディアから多く情報を得ることができた。ただ、勝負の中にある「勝つ」「負ける」以外に大切なものは何なのかを少し書いていきたいと、年の初めにあたって感じた。

先日、JFA(日本サッカー協会)が行っている「夢の教室」で小学校5年生にオンライン授業をした。そこでは「夢シート」というものを配り、後日、生徒たちからのメッセージが「夢先生」に戻ってくるのだが、その内容に私はよくハッとさせられる。今回も強く印象に残ったものがあった。

その内容は、まさに「努力」だった。

私は「努力は報われるから頑張って」と単純に伝えるのは、あまり好きではない。だが努力をすることにより、そのジャーニー(道のり)で得られる人間関係や、達成感、敗北感、受容する力などが経験できることで、人として成長できるのでは、と考えている。

その生徒の言葉は「努力は形を変える。壊れたりもする。けど、努力をだめだった時ほど続けたい」というものだった。

努力というものの価値をしっかり認識しているなと思った。努力をすれば報われる。そういう考えが根付いているんだと。「報われるから頑張れ」。この声掛けは、子供たちの未来を左右するなと感じた。


2008年水泳日本選手権、北京五輪出場を決めたときの筆者
2008年水泳日本選手権、北京五輪出場を決めたときの筆者

私が2008年北京オリンピックに出場したいと考えたとき、最も必要だったのは、メンタルトレーニングだった。そのトレーニングの中で「一番ダサい、恥ずかしい自分」と向き合うことが本当につらかった。

でもその作業をすることで、自分の思いを言語化できるようになったり、苦しい場面に対処できたりする。「弱い自分と向き合うことで強い自分に出会える」。私は、そう感じる。

人は努力を「勝つ」ためにやっているのかもしれない。でもそれは一時の勝敗だけでなく、自分の人生すべてに関わってくるということを伝えたい。トップスポーツは勝敗で明暗が分かれることは確かだが、ひとりひとりが努力した過程には無限大の価値がある。

頑張っているすべての人にエールを送りたい。年始の学生スポーツを見ていて、そう感じた。(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)