今月上旬まで行われていた東京2020大会だが、既に過去のものになりつつある。関わった人たちが次のステージへ向かっていることも、その理由の1つだろう。しかしここで少しだけ立ち止まって、「スポーツ」とはどんなものなのか、ひもといていきたい。

13年9月6日、東京五輪決定を発表するIOCのジャック・ロゲ会長
13年9月6日、東京五輪決定を発表するIOCのジャック・ロゲ会長

2013年に東京2020大会の開催が決まってから、レガシー(遺産)について多くの場所で語られてきた。私は修士の時代にスポーツマネジメント専攻だったこともあり、数々の場所で講義、ディスカッション、会議に参加した。

通常7年間(東京大会は8年間)の準備期間の後、わずか17日間しかないオリンピックと13日間しかないパラリンピック。開催はあっという間の期間だ。レガシーとは、この大会期間だけで作られるということではなく、この期間がテコとなって徐々に作られていくとの考え方がある。つまり、今この時期からこの大会についてのレガシーをさまざまなステークホルダーが検証し、次のステージへと検討していかなければならない(もう行っているところも数多く存在する)。

歴史をさかのぼってみよう。そうすればより「今」を感じられるだろう。1886年から近代オリンピックは始まった。オリンピックの父と呼ばれるフランス人のピエール・ド・クーベルタン男爵が、ギリシャのオリンピアードで行われていた古代オリンピックの復興を遂げた瞬間でもあった。当時のヨーロッパ全体にはギリシャへの憧れが多く残り、多くのヨーロッパ人が古代オリンピックの復興をしたい!と思っていた風潮だったようだ。

イギリスとフランスの間など、スポーツは国のルールは存在していたが、19世紀後半にスポーツを普及させたのはアメリカだった。レクリエーションの要素を持ったスポーツが、民主主義において国民をまとめるために根付いてきたのだ。エリートスポーツだけがスポーツじゃないのは、この時代からも言える。このあたりはトーマス・ウッドの「新体育論」に詳しい。

さまざまなカタチを持ち合わせるスポーツはむしろ、スポーツを楽しむ人たちに支えられている。

世界保健機関(WHO)が2018年6月に身体活動に関する世界行動計画(GAPPA)を発表した。これは何かというと、身体不活動者を2025年までに10%、2030年までに15%減らすことを目的に、行動目標をどの国でも適用、応用可能なエビデンスのある20の政策措置の提案をしているものだ。以前にも本コラムで紹介しているがSDGsうちの13の領域と相互連携しているといわれている。つまり、「アクティブライフ」を推奨しているということだ。ウオーキングや、ジョギングなど、アクティブなレクリエーションや、ダンスなどを生活に取り入れるということだ。

「身体活動のレベルを上げなければ、医療費などの関連コストは上昇し、ヘルスシステム、環境、経済発展、地域のウェルビーイングおよび生活の質(QOL)に悪影響が及ぶ」とも言われている。全世界では、成人の4人に1人、思春期(11~17歳)の4人に3人はWHOが設定した身体的活動における世界的推奨を満たしていないという。さまざまな世代にあったベネフィットが、アクティブに過ごすことで得られるのだ。ウェルビーイングやメンタルヘルスにも運動が必要なのだ。

スポーツは近年では、「する・見る・支える」という概念が根付いてきている。重要なことは、自身の生活でスポーツを実施することが、現代の課題となっているメンタルヘルスの解決にもつながるということだ。歴史と共に変容してきたスポーツは、社会の課題とより密接になってきた。「楽しむスポーツ」が、これからの時代により重要な立ち位置になりそうだ。

(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)