ついに日本人ボクサーが“ミドル級”のスーパーファイトのリングに立つ日がくる。

WBA同級スーパー王者の村田諒太(帝拳)が12月29日、首都圏でIBF同級王者ゲンジナー・ゴロフキン(カザフスタン)と王座統一戦に臨むことが確実になった。

五輪金メダリストでプロでも頂点に立つ村田に対して、ゴロフキンは17連続KO防衛記録を誇る世界的なスター選手。ともに好戦的なファイトスタイルで、武器は一撃必倒の剛腕。実力と実績を兼備した人気王者同士の決戦だけに、報酬合計は10億円を超える可能性も高く、海外でも注目されている。

ミドル級のリミットは72・575キログラム。欧米の男性の平均的な体格で、全階級を通じて最も選手層が厚く、レベルも高いと言われてきた。戦後、今も史上最高のボクサーと言われるシュガー・レイ・ロビンソンが一時代を築き、1970年代には統一王座14連続防衛の鉄人カルロス・モンソンがいた。80年代にはマービン・ハグラー、シュガー・レイ・レナード、トーマス・ハーンズ、ロベルト・デュランの4人のスター王者が拳を交えた、スーパーファイトの主戦場である。

日本人は欧米人にパワーや身体能力で劣ると言われ、長く「ミドル級は手が届かない」と思われてきた。1995年に竹原慎二がWBA王座を奪取して風穴をあけたが、当時は“大番狂わせ”という印象が強く、ミドル級に対する日本人の認識は変わらなかった。あれから20年。村田は強打を武器に世界トップと真っ向勝負でミドル級戦線を勝ち抜き、スター王者との統一戦まで駒を進めた。ゴロフキン戦は日本人の強い肉体と高い運動能力を世界中に証明する絶好の機会でもある。

サッカー02年W杯で日本代表監督を務めたフィリップ・トルシエ氏が「日本人の身体能力が欧米より劣るという認識は迷信だ」と主張していたことを思い出す。それを証明するために母国フランスから専門家チームを呼んで日本選手のデータを採取した。その数値は欧州リーグの選手と比較しても遜色なく、GK川口能活のデータは欧州でもトップクラスだった。それでも当時の私は半信半疑だったが、今思うと彼の主張は正しかった。

日本人離れした強打で2012年ロンドン五輪でミドル級を制した村田は「神様が僕にくれた才能」と言った。確かに彼には天性のパンチ力が備わっていたのだろう。ただ、それだけで層の厚いミドル級でスーパーファイトの主役にはなれない。神様は探求心や地道に努力する才能も彼に授けたのだと思う。先輩王者が得意としたボディーブローの打ち方を分析したり、海外の強打者の映像を繰り返し見て、パンチに磨きをかけてきたとも聞く。

そういえばトルシエ監督のアシスタント兼通訳だった同じフランス人のフローラン・ダバディ氏がこんな話をしていた。「90年代にNHL(北米プロアイスホッケーリーグ)にはアジア系の選手が多く、日系人もいた。身体能力も高かった。強い体は栄養とトレーニングでつくれるんです」。自らの拳で次々と壁を突き破ってきた村田が、スーパーファイトのリングでそれを実証する。【首藤正徳】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「スポーツ百景」)