1936年のベルリン五輪で、サッカー日本代表は1回戦で優勝候補筆頭のスウェーデンを撃破した。技術と戦術で圧倒されて前半に2失点したが、後半に入ると猛烈な運動量でピッチを駆け巡り、3ゴールを奪い返して逆転勝ち。当時のサッカー界では無名だった東洋の小国が世界を驚かせた『ベルリンの奇跡』として、今も語り継がれる。

ところが3日後の2回戦について知る人は少ない。イタリアに0-8で大敗したのだ。日本は初戦ですっかり消耗して、故障者も続出した。右腕を骨折してイタリア戦を欠場したDF堀江忠男氏は自著『わが青春のサッカー』(岩波ジュニア新書)に「精根尽くしたスウェーデンとの試合の疲れや負傷が回復できなかったのが原因」と記している。

W杯カタール大会1次リーグ第2戦で、日本がコスタリカに0-1で敗れた。W杯4度優勝を誇るドイツに逆転勝ちした大番狂わせから中3日。初戦から先発5人を入れ替えた。戦術的な思惑もあったが、主力が故障で外れ、出場した選手も消耗からかミスが多かった。勢力図もレベルも違う今とは比較はできないが、80年以上前のあのベルリンの日本と、どこか重なる。

サッカーはコンディションの差が勝敗を大きく左右する。特に世界的な強豪国と初戦で対戦するチームは、その試合にピークを合わせて準備をするので、番狂わせも珍しくない。しかし、W杯や五輪は長丁場。勢いだけで勝てるほど甘くはない。それは今も昔も変わらない。連勝を逃した日本の戦いぶりを見ながら、そう思った。

日本サッカー界にはもう1つ語り継がれる奇跡がある。96年アトランタ五輪の『マイアミの奇跡』である。初戦でドリームチームと呼ばれた優勝候補ブラジルに1-0で歴史的な勝利を収めた。しかし、2戦目に金メダルを獲得したナイジェリアに0-2で敗れ、結果的に1次リーグで敗退している。

サッカーでは『奇跡』や『大番狂わせ』は、次の勝利を保証するものではないのだ。それは過去の歴史が物語る。そもそもコスタリカは簡単に勝てる相手ではなかった。冷静に考えれば、あのドイツの足をすくうだけの力はついたが、守備を固めたコスタリカにはまだ空回りする。これが今の日本の実力なのだろう。

第3戦のスペイン戦に勝てば日本の1次リーグ突破が決まる。それは再びドイツに勝つのと同じくらいの難事だが、これを乗り越えれば、ドイツ戦の勝利が決して奇跡ではなかったことを証明できる。過度な期待と皮算用は禁物ということを肝に銘じながら、日本時間12月2日午前4時のキックオフを待ちたい。【首藤正徳】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「スポーツ百景」)

日本対コスタリカ 後半、コスタリカ代表ケイシェル・フジェルにゴールを決められ肩を落とす吉田(撮影・パオロ・ヌッチ)
日本対コスタリカ 後半、コスタリカ代表ケイシェル・フジェルにゴールを決められ肩を落とす吉田(撮影・パオロ・ヌッチ)