男子60キロ級2回戦でガリゴスに押さえ込まれる永山(撮影・パオロ ヌッチ)
男子60キロ級2回戦でガリゴスに押さえ込まれる永山(撮影・パオロ ヌッチ)

永山竜樹の銅メダルが、私には金色に光って見えた。

パリ五輪(オリンピック)柔道男子60キロ級の表彰式。「悔しい気持ちの方が大きい」と言う本人に笑顔はない。確かにベストの結果ではなかった。でも手にしたメダルは、不条理で残酷な現実を、ベストを尽くして乗り越えた証なのだ。もっと胸を張っていい。

準々決勝で不運に見舞われた。

相手の絞め技をこらえていた永山は、主審の「待て」の合図に力を抜いたが、力を緩めようとしない相手に約6秒間も絞め続けられて失神した。結果は「片手絞め」による一本負け。畳の上に残って抗議したが、判定は覆らなかった。

彼にあえて厳しいことを言えば「待て」の合図で相手より先に力を緩めたことはうかつだった。五輪では不運や不公平は珍しくないし「そんなばかな」ということがよく起きる。一瞬の油断、わずかな心のスキが命取りになるからだ。

何年もかけて積み上げたものが、不条理な判定で一瞬にして崩れ落ちた。永山は張り詰めた糸がプツンと切れて、集中力までそぎ落とされたに違いない。

柔道男子60キロ級3位決定戦、一本勝ちを決める永山(上)(撮影・垰建太)
柔道男子60キロ級3位決定戦、一本勝ちを決める永山(上)(撮影・垰建太)

それでも彼はわずか2時間で、奈落に落ちた心をもう1度引き戻し、腐らず、前を向いて、敗者復活戦を見事な攻めの柔道で勝ち上がってみせた。

きっと彼は心の鍛錬も積んできたのだろう。人は窮地に追い込まれた時にこそ本当の強さ、弱さが出るのだと思った。彼の戦いに、何だか人生の縮図を見たような気がした。

パリ五輪の競技初日。日本の金メダル候補たちが“まさか”の敗北や失敗にまみれた。

世界ランク2位のバレーボール男子は同11位のドイツに敗れ、体操男子個人総合で連覇を目指す橋本大輝は得意の鉄棒で着地に失敗。卓球混合ダブルスで張本智和と早田ひなのペアが、初戦で北朝鮮に完敗した。

五輪は何が起きるか分からない。それをあらためて思い知らされた1日だった。そして、思わぬ敗北を喫したり、想定外の失敗をした時にこそ、本当の人間力が問われることも。転んだときに何をつかんで立ち上がるか。それが重要なのだ。大会はまだ始まったばかり。これから巻き返しを期す日本勢にとって、永山の銅メダルがお手本になるはずだ。【首藤正徳】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「五輪百景」)

メダルセレモニーで銅メダルを手にする永山竜樹(ロイター)
メダルセレモニーで銅メダルを手にする永山竜樹(ロイター)