東京2020オリンピック開幕まで1週間となった。各競技、さまざまなドラマがある中、代表選手が決定した。今回は代表から漏れたものの、東京五輪に向けて努力を惜しまず戦い抜き、日本を牽引してきたトライアスロン選手たちについて触れたいと思う。

上田藍
上田藍

■ 上田藍(37)

日本トライアスロン界の顔として長年世界のトップで戦い続け、「トライアスロン界の藍ちゃん」とも親しまれてきた上田選手。4度目の五輪出場を目指していたもののかなわなかった。

上田選手とはリオ五輪に向けての4年間、同じチームでトレーニングをさせていただいた。向上心の塊で、誰よりも負けず嫌いな性格が上田選手をここまで築き上げてきたのだと思う。

今回の東京五輪に向けては、選考レースで悔しい結果となったが、ランラップは常に世界のトップクラスだった。四六時中トライアスロンのことだけを考え、強い信念を貫き通してきた女王は、これを機に新たなステージへ上がると公言している。

今年38歳になるベテランだが、いまだにベストを更新し続けているので、この悔しさは今シーズン後半に爆発させるに違いない。残りのシーズンを悔いなく、納得できるパフォーマンスを発揮して、次のステージでのさらなる活躍を期待したい。

井出樹里
井出樹里

■ 井出樹里(38)

井出選手は北京、ロンドン五輪の日本代表で、北京五輪の5位入賞は日本トライアスロン界の五輪最高順位だ。

上田選手と共に長年トライアスロン界を引っ張ってくださった大先輩。普段は頼りがいのある姉御肌で、後輩選手の面倒をよく見てくださる優しい方だ。どんな事があろうと決して弱音は吐かず、常に自分自身と向き合い、誰よりも厳しい練習に打ち込む姿に感銘を受ける選手は多い。

東京五輪に向けても何度も何度も試練に立ち向かいながら突き進んできたが、本来のパフォーマンスに満たなかった。井出選手は狙ったレースで非常に高いパフォーマンスを発揮できる方で、正直、私は一番競りたくない相手だった。

今後の意向は表明していないが、井出選手はトライアスロンを愛し、普及活動も精力的にされているので、これからの活躍も楽しみにしている。

佐藤優香
佐藤優香

■ 佐藤優香(29)

ユースオリンピック優勝、リオ五輪出場、東京招致活動に参加するなど、数々の実績を残してきた佐藤選手。周囲の期待が大きくなると同時に、彼女しか感じ取れない「見えないプレッシャー」があったはずだ。

そんな中、体調不良に見舞われ本来のパフォーマンスに届かぬままこの時期を迎えた。数年間一緒に戦っていたが、レースで良い流れに乗った時の彼女の強さは、世界のトップ選手に引けを取らないと思っている。

彼女はまだ20代。今はまだどこまで心の整理がついているかはわからないが、もし、前を向いているとしたら、自身の納得のいく形で今後を突き進んで欲しい。

未来は明るい、そう信じている。

古谷純平
古谷純平

■ 古谷純平(30)

リオ五輪で代表補欠だった古谷純平選手は、現地で選手のサポートに徹してくれた。悔しい気持ちももちろんあったはずだが、東京五輪に向けて、4大会五輪出場の田山寛豪さんにも「日本の男子を引っ張るのは純平だぞ」と言われ、東京五輪に対する気持ちは誰よりも強かったはずだ。実際、田山さんの言葉通り、東京五輪に向けて男子選手を引っ張り、士気を高めてきた。

東京五輪が延期となり、2021年に向けてさらに調子を上げていた古谷選手は、選考レースでスイム・バイクは上位に位置していたものの、バイク中にパンクやアクシデントに見舞われ落選。夢ははかなく散った。

しかし、この屈辱が彼のメンタルをさらに強くしたに違いない。若手の男子選手をまとめ、今以上に世界と戦える日本チームに期待したい。

北條巧
北條巧

■ 北條巧(25)

東京五輪に向けて、一番力をつけてきたのが北條選手だ。

5、6年前までは学生レースで途中棄権したり、国内のレースでも目立った成績をおさめられる選手ではなかった。頭角を現したのは2017年の日本選手権。4位入賞し、そこからは覚醒したように活躍を続けた。みるみるうちに日本代表、そして日本チャンピオンに上り詰めた。

今振り返ると、ナショナルチーム合宿で女子チームとバイク練習をしていた選手が、よくここまで強くなったと感心する。彼が力をつけてきたことで、日本男子選手の層が厚くなり、強くなった。

最終選考レースでは、代表に選ばれたニナー賢治選手に匹敵する強さをみせたが、あと1歩で涙をのんだ。この悔しい経験がさらに北條選手を強く、そして、たくましくさせるだろう。今後の活躍に期待したい。

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自国開催の東京五輪はそれぞれの選手にとって、特別な思い入れがあったと思う。コロナ禍の影響でさまざまな変更があり、五輪に対する見方も変わってしまったかもしれない。しかし、いちアスリートとして、目標を掲げ、日々努力を惜しまない事は何にも変え難い財産になる。

東京五輪まであと7日。スポーツを通して生み出されるドラマを楽しみにしている。

(加藤友里恵=リオデジャネイロ五輪トライアスロン代表)