緊急事態宣言が5月末まで延長され、外出自粛の今、皆さんはどうお過ごしだろうか。健康で元気な体を持ちながら外出できない日々や、生活での行動制限は健康な体だけではなく、心までもが不調になってしまうことがとても心配である。

心と体は一体。心の健康は体の健康である。免疫力を下げないためにも、テレビやネットなどの外的な情報ばかりに振り回されるのではなく、時には情報をシャットアウトし自分の心の健康状態をきちんと見つめながら過ごして欲しい。

私も現役時代にケガなどで思うように練習が出来ず、焦る日々、不安な日々を何度も過ごしてきた。引退を決める原因の1つにもなった慢性的な腰痛は、毎日のケアをしっかりしていても年齢を重ねるごとにひどくなっていった。それでも平等に与えられた時間の中で過ごすしかなく、迫り来る試合に向けて当たり前に練習出来ている選手をうらやましく思ったり、なぜ自分だけこんなつらい思いをしなければいけないのかと泣いた日々もあった。

しかし、メンタルトレーニングを受けるようになってからは、今起きている状況に不満を感じるのではなく、今の自分に出来る事を探し、今のベストを尽くすことに意味があると思えるようになった。それと同時に、体以上に心の健康が大切だということも感じた。心が健康であれば、どんな状況になっても必ず乗り越えられえると信じられるようになったのだ。

そこで現役中にメンタルトレーナーから指導を受け、私も実際にやっていた外出自粛中でも家でできるメンタルトレーニングを1つ紹介したい。

私たちはつらい時や悲しい時には無意識のうちに背中を丸め、体を小さくする「ローパワーポーズ」という姿勢をとってしまう。これは自然なことで心が落ち込むと、同様に体も小さく縮こまってしまうのだ。

それとは反対に、物事がうまくいっている時には背筋は伸び、体の動きが大きくなる。試合で勝った時などに両手を大きくあげ喜ぶポーズを想像してみてほしい。このようにポジティブな感情の時には「ハイパワーポーズ」という空間を広く使う動きをする。



心の状態は姿勢やポーズとなって表れ、無意識のうちに表面化されているのだ。このことから心の健康は体の健康へとリンクしていることが分かるが、体の動きもまた心に影響するという。

外出自粛が続き、家の中で過ごす時間が増えると、どうしてもテレビやパソコン、携帯を見て過ごすことが増えてしまうが、その時の姿勢は意識しているだろうか。体の動きが心の不調へとつながってしまう前に、一度、自分の姿勢を意識してみてほしい。

空間を大きく使う「ハイパワーポーズ」は1日2分、そのポーズを取ることによってストレスを軽減する作用があるという。テストステロンというホルモンが分泌することが理由ともいわれている。

腕を左右に大きく開いて深呼吸をしたり、手を上にあげて背伸びをするだけでも気持ちがすっきりするが、この動きが実際に心にもいい影響を与えてくれる。

「動きを変えれば、心は変わる」ということを心理学を通して学んだ。


今は世界中が試練の時。選手にとっては練習が出来ないストレスもピークに達しているだろうし、日常生活においても気持ちが上がらないこともあると思う。しかしそこで感情のままに体を放っておくのではなく、あえて心とは逆に体の動きをポジティブにしてみよう。そのことによって心も前向きになる効果がある。心身ともに健康だと思っている人にも、現状維持や予防のために1日の習慣に取り入れてみてはどうだろうか。

生活に制限やストレスが増え、今まで当たり前に過ごしてきた日常に有り難みを感じる日々だが、今後またいつ何が起こるかわからない。どんな状況の時にでも冷静さを持ち、きちんと自分をコントロールできるメンタルを身につけておくことは、自分を守ることにもつながるとても大切な武器になるだろう。

(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)