今月初めに東京アクアティクスセンターで行われた飛び込みのワールドカップ。東京オリンピックの最終選考会だったこともあり、多くの注目が集まった。

これまではほとんど、一般向けに放送されることがなかった飛び込み競技。しかし、今回はCS放送やYouTubeで生配信されることになった。そしてありがたいことに、私には解説の機会をいただいた。「これは、たくさんの方に見ていただけるチャンスだ!」と思い、出来るだけ分かりやすく、そして面白い競技だと思ってもらえるような言葉選びを心がけた。


ワールドカップの解説を務めました
ワールドカップの解説を務めました

初めて飛び込みを観戦する方は、当然ながらルールも分からない。

まずは基本となる、男子は6本、女子は5本の合計点で競うことや、板飛び込みの3メートルと高飛び込みの10メートルの違い、そして採点される上で何が重要か、などを説明する。

試合が始まれば、選手が飛び終えた直後に、演技に対しての良かった点や悪かった点を、ひと言で伝えなければいけない。選手が順番に飛び込むときの間隔は、わずか10秒ほど。次の選手が飛び出す前に、言いたいことを簡潔に伝えなければいけない。なかなか瞬発力のいるものだった。

私は23年間、飛び込み選手としてさまざまな試合に出場し、たくさんの試合を観戦してきた。当たり前だが、何が良くて何が悪かったかは、演技を見ればすぐに分かる。しかし、これまで使用してきた飛び込みの専門用語や感覚の表現が、初めて聞く人にはなかなか伝わらない。そこを分かりやすく、どう表現するか。脳内では大忙しだったが、さまざまな言葉を組み合わせ、出来るだけ心にスッと入りやすい言葉を選んだ。

そんな中で、大会4日目には、丸川珠代五輪相が来場した。オリンピックのテスト大会も兼ねていたための視察だった。

初めて飛び込みを観戦される丸川さん。そこでも私に解説役が回ってきた。幸い、連日の解説を終えたあとだったので、すんなりと言葉が出てきてくれた。その時もルールはもちろん、飛び込みをより身近に感じてもらえるような豆知識も加えた。

例えば、選手たちが持っているセームというタオルの使い方。これは割とよく聞かれる質問の1つだが、選手たちはセームを使って、飛ぶ前に体に付いている水分の調節をしている。空中で、抱え型やエビ型になった際に、遠心力で手が滑って外れてしまわないようにするためだ。そして、次に飛ぶときに備えて下に落とし、飛び終えた後にまた拾う。飛び込み競技では、欠かせない道具の1つなのだ。

その他にも、10メートルに敷いてあるタータンと呼ばれるゴム製のマットは、国によってだけではなく、プールによっても質が違う。軟らかいもの、硬めのものがあり、さらには水分を含んだり、たくさんの選手が飛ぶことによっても変化する。そういうところにも選手は敏感に感じ取り、対策を行っていることは、説明しなければ見当もつかないだろう。

試合が進みしばらくすると、丸川さんは選手の特徴なども少しずつつかみ始めた様子だった。30分ほどの滞在予定だったところを、2時間弱の試合を最後まで観戦してくださった。

そのことを後から聞いて、とてもうれしい気持ちになった。


ワールドカップを視察した丸川五輪相(左)と筆者
ワールドカップを視察した丸川五輪相(左)と筆者

飛び込み競技は、ルールを知らず、ただ見ているだけでは面白みを十分に味わってもらえない競技だと思う。

男子であれば、6ラウンドまで飛ぶ中で、思わぬ失敗や、大技の成功によって、順位はどんどん入れ替わる。最終ラウンドに近づくにつれて、トップ争いが激化するところにこそ、興奮や面白さが詰まっている。実は、見た目も試合展開も、とてもスリリングな競技なのだ。世界ではとても人気のあるスポーツの1つ。日本でも広めるためには、まずは多くの方々に、試合観戦の仕方を知ってもらうことが大切だと感じた。

私にとって今大会は、「言語化する」ということを学び、そしてその難しさを感じた大会だった。解説をする上でとても心強かったのは、実況アナウンサーの方々の存在だ。アナウンサーの皆さんの勉強熱心さや、機転の利く言葉遣いにはとても感動した。飛び込み競技をより面白く、スリリングに視聴者の皆さんに伝えられたのも、実況アナウンサーの方々のおかげだと、感謝の気持ちでいっぱいである。

最近では、玉井陸斗(JSS宝塚)や三上紗也可(日体大)ら、世界で活躍できる若手選手たちが、日本の飛び込み界を盛り上げてくれている。そんな時だからこそ、これからはさらに「言語化する」というところにも力を入れていかなければいけないと感じた。

(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)