至学館大レスリング部の栄和人監督(54)が、教え子に手をつけた!? 至学館大創立110周年を記念するシンポジウム「日本女子レスリング、強化の軌跡」が7日、愛知・大府市の同大で行われた。栄監督と同校を卒業した五輪3連覇の吉田沙保里と伊調馨、ロンドン五輪金の小原日登美氏ら超豪華メンバー。日本レスリング協会の福田富昭会長も参加したパネルディスカッションで、栄監督の赤裸々トークが爆発した。

 栄監督の前妻で92年に同大初の世界女王となった坂本涼子氏も参加したことが引き金になった。監督の家族の話になると、栄監督が自らマイクを握って「私は2人、選手に手を出しました」と衝撃告白。「最初はここにいる坂本で、その後いろいろありまして(離婚し)、2番目は(00年世界銀の)岩間怜那です。このくらいでいいですか」と、真っ赤になって話した。

 「私の教え子に。でも、責任はとった(結婚した)から」と、司会役の谷岡郁子学長がフォローすれば、栄氏に女子の指導を勧めた福田会長も「まさか、手をつけるとは思わなかった」と苦笑いで続けた。「強化の軌跡」のテーマは、栄監督の「手を出した」発言で大脱線。もっとも、これで約200人の来場者は「危ない」トークにはまった。

 栄監督が教え子2人と結婚したのはレスリング界では有名で本人も隠すことをしないが、公の場で明言するのは異例だ。福田会長は「私は奨励している。レスラー同士が結婚すれば、子どももレスリングをして、競技人口も増える」と冗談交じりに擁護したが、これも「ギリギリ」だろう。

 さすがだったのは、兵庫・芦屋学園監督として今も栄氏に指導の助言を求めることもある坂本氏。元夫に対して「男っぽい反面、繊細で細かい指導をする。レスリングでは尊敬しています」と笑顔をみせた。伊調が「すごく怖くて、入学して3日目で泣いた。怒られないようにやったのがよかった」と言えば、吉田は「しつこくて、ネチネチ感がある」と笑いを誘いながらも「選手を強くしようという責任感は強い」と、栄監督を持ち上げた。

 パネルディスカッションの「強化の軌跡」というテーマが、いつの間にか「栄監督と選手の関係」に変わってしまったが、それも栄監督の持ち味だ。ロンドン五輪前に連載「コーチの流儀」でその指導哲学を「選手と恋愛する」と書いたことがあった。24時間365日、選手のことだけを考えて指導に没頭する。練習から私生活まで徹底して面倒を見る。「洗濯の仕方まで言われた」と小原氏が言えば、吉田も「食事に厳しくて、おかし禁止令を出された」と振り返った。

 時に一線を越えてしまうことは決してほめられることではないが、それほど真剣に取り組んだから前例のほとんどなかった「女子レスリング指導者」として成功したのだろう。この日登壇した4選手だけで、五輪金メダル7個、世界選手権優勝延べ30回。指導した世界女王は至学館大(前中京女大)で7人、同校就任前を含めれば11人になる。

 世界選手権2連覇の登坂絵莉率いる至学館大レスリング部には、まだまだ金の卵がいる。昨年の全日本選手権60キロ級で優勝した栄希和(3年)は、坂本氏との間に生まれた愛娘だ。「こいつらを勝たせるのが、オレの仕事だから」。練習する約30人の選手を見つめる栄監督。すべてをレスリング指導にささげる生活は、まだ当分続きそうだ。【荻島弘一編集委員】