東京の空をブルーインパルスが飛んだ。都内上空を周回し、国立競技場上空で描いた五輪マーク。前々日の予行演習では白一色だったが、この日は5色のスモークを出した。もっとも、雲にもじゃまされ、きれいな「5輪」は描けなかった。

昨年3月の聖火到着式の時も、同じだった。ブルーインパルスが所属する宮城・航空自衛隊松島基地、前日の好天では大成功していた。ところが、聖火到着日には強風が吹いた。その後の延期や新型コロナとの戦いを予感させるように。

1964年の東京大会の時は、前日に大雨。開会式の中止さえ心配されたが、当日は快晴だった。雲ひとつない空に描いた5つの輪で、大会は一気に盛り上がった。それを考えれば、今回はやはり「呪われた五輪」なのではないかと思ってしまう。

もっとも、不完全な五輪マークでも多くの人は歓声をあげ、拍手を送った。旧国立競技場サヨナライベントの14年、桜を描いたラグビーW杯開会式の19年でのブルーインパルス以上の感動が、東京を包んだ。

完璧でなくても、厚い雲にじゃまされても、ごう音とともに一直線に飛ぶ機体や少しの輪を見ただけで、都民は沸いた。64年と違って高層ビルが林立し、航空機も飛び交う都心。14年には「今の東京では無理」と聞いた。それでも、試行錯誤し、訓練を重ねた末の展示飛行。苦労を知れば、その感動はさらに増す。

直前のドタバタで、開会式を冷めた思いで見た人も多いだろう。式典を巡る人選のゴタゴタ、組織委員会や政府のお粗末な対応、新型コロナへの不安…、開幕直前になって分厚い雲におおわれ、強風も吹いた。多くの国民の開会式への期待も薄れた。少なくとも、いつもの祝祭感はない。

それでも、日本中で歓声はあがる。拍手は起きる。開会式が完璧なものでなくても、選手たちが救ってくれる。穏やかな表情で行進し、真摯(しんし)に競技に向き合う選手たちは魅力的だ。柔道や競泳がメダルラッシュを演じ、サッカーやソフトボールが勝ち上がれば、五輪ムードは盛り上がる。国民の目も、一気に五輪へと向くはずだ。

IOCやスポンサーのために作られた開会式もいいけれど、五輪本来の価値は選手たちのパフォーマンスにある。不完全でも、不細工でも、一直線に勝利に向けて頑張る。そんな姿勢に心動かされる。マイナス要素が多い大会になるのは確か。それでも、五輪の興奮や感動はやってくる。

東京大会招致成功から8年、世界最大のスポーツの祭典が始まった。新型コロナの不安はつきまとうし、パラリンピックも含めて先行きは決して明るくない。それでも選手は全力を尽くして戦い、栄光を目指す。主役は選手、式典は脇役に過ぎない。たとえ5つの輪が完璧でなくても、それを作ろうと努力することが感動を呼ぶ。だからこそ、選手の頑張りが見たい。【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIのOh! Olympic」)