ようやく、日本にも満員のスタンドでのスポーツが戻ってくる-。体操・新体操の世界選手権が18日に北九州市で開幕。新型コロナに対する不安が残る中、ワクチン接種などを条件とする「ワクチン・検査パッケージ」を活用して観客の上限なしで開催される。

10月に入って緊急事態宣言が解除され、全国的に新規の感染者数も減少。「第6波」への心配はあるものの、プロ野球やJリーグは同パッケージの活用などで観客数の制限を緩和している。まだまだ「以前のスタンド」ではないが、少しずつ戻ってはきている。

現状で初めて観客数の上限を「撤廃」するのが、体操の世界選手権。「ワクチン2回接種後2週間以上経過していること」「入場の72時間前以内にPCR検査で陰性が証明されていること」の条件付きで大会後の追跡調査もある実証実験だが、それでも「撤廃」される意味は大きい。何よりも多くの人が「生」でスポーツを見ることができる。

言うまでもなく、観客の声援は大きな力になる。W杯アジア最終予選のアウェー戦でサウジアラビアに敗れ、ホームでオーストラリアに勝ったサッカー日本代表の例を出すまでもなく、観客の有無が成績に関係するのは間違いない。もっとも、満員の観客に期待するのはそれだけではない。

東京五輪開催が決まった時、多くの選手が言ったことは「観客の声援が力になる」とともに「多くの人に見てもらえる」だった。野球やサッカーなど満員の観客に慣れている競技の選手はいいが、マイナー競技の選手にとっては重圧にもなる声援より「見てもらう」ことの方が重要なのだ。

今大会にも出場する内村航平は「体操をもっとメジャーにしたい」と言う。人気や実力から見て日本の体操がマイナーとは思わないが、確かにメジャー競技とは言いにくい。本当に注目されるのは4年に1回。五輪の時だけかもしれない。

「世の中の人が、体操選手の名前を何人知っていますか?」と内村に言われたこともある。東京五輪直後とはいえ、知られているのはやはり内村くらい。新たに個人総合王座に就いた橋本大輝の名前を言える人がどの程度いるか。「ひねり王子」白井健三の方が知られているかもしれない。

会場で試合を見れば、競技の魅力もより伝わりやすい。「自分の目で見た」感動や「肌で直接感じた」熱気は、テレビでは味わえない。さらに、テレビ中継の画面でも人がまばらなスタンドよりも満員の方が迫力が伝わる。「人気競技なのかも」とも思えてくる。

「見るスポーツ」を成長させるためには、観客を入れることは最低条件。新型コロナの脅威とも共存しながら、観客を入れていくのは大切だ。もちろん、リスクはある。すでに来日選手らからも陽性反応が出ている。クラスターにでもなれば、その責任は重い。

だからといって、怖がって「観客制限」を続けていても先はない。体操界と北九州市はスポーツが日常を取り戻すための英断を下した。それが、体操をよりメジャーにすることにもつながる。内村航平の強さに満員の観客が酔った11年東京大会以来10年ぶりの日本開催。競技とともに、満員のスタンドにも熱い視線が注がれる。【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIのOh! Olympic」)