プロ野球が開幕した。新型コロナウイルス対策のまん延防止等重点措置が解除されたことを受けて、3年ぶりに入場制限を設けずにシーズンを迎えた。観客はマスク姿ではあるが、テレビ画面の満員のスタンドを見ているだけで、気持ちは高ぶる。「スタンドで一緒に応援したい」となる。

観客を制限して始まったJリーグも、制限の撤廃に動いている。大相撲も徐々に観客数を増やしている。当たり前だった日常のスポーツが、少しずつではあるが戻ってきている。まだ声を出しての応援は制限されているが、いずれは可能になるはず。それが、待ち遠しくてたまらない。

新型コロナに揺れたこの2年、スポーツの「見方」は大きく変わった。無観客が当たり前になったし、観客を入れても人数制限が厳しかった。試合をテレビやネット配信で観戦し、家のリビングで応援する。それが、新型コロナ禍の新しい「楽しみ」にもなった。

もっとも、テレビに映るスタンドがガラガラだと、盛り上がりには欠ける。選手も同じ。ある選手は「観客がいないと、力が出ない」と言った。選手とファンが一緒になって試合を作り、盛り上げる。それが、スポーツの魅力を何倍にもする。

だからこそ、昨年の東京オリンピック(五輪)が無観客になったのは今でも残念に思う。感染拡大の状況でやむを得なかったし、1年以上の延期ができなかったことも確か。ただ、今の状況を見れば、無理を承知で「もう1年延期していれば」と考えてしまう。

北京五輪も同じだ。中国は「ゼロコロナ」を掲げて徹底して対策をした。スタンドには招待された中国人観客。応援する風景は異様だったし、多くの国のファンが集まる五輪の風景はなかった。夏と冬、2大会続けて選手だけでなく世界中の多くの人が集って触れ合い、世界が1つになる「本当の五輪」はなかった。

「パリには行きたいよな。オリンピックのムードを味わいたいよ」。東京五輪を楽しみにしていた友人が言った。「マラソンも札幌だったし」。東京で五輪を開催したという実感は今もないという。だから「五輪」を感じるために新型コロナあけのパリに期待する。

「観客がいなければ、魅力が伝わらない」と言ったのは、東京五輪で初採用されたスケートボードの関係者だった。パリ五輪では、そのスケートボードはブレイクダンスなどとともにコンコルド広場で開催。エッフェル塔の下でビーチバレーが行われ、ベルサイユ宮殿で馬術が開催される。シャンゼリゼ通りでのマラソンや自転車ロードレースには、五輪で初めて一般参加もできるという。

選手が船で入場するセーヌ川の開会式は、有料無料合わせて60万人が観戦する見込み。東京では感じなかった五輪と都市との一体感が、うらやましくもある。そういう五輪を迎えられるように、感染症が落ち着き、スポーツの日常が戻ってきてほしいと思う。【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIのOh! Olympic」)