あけましておめでとうございます。

 ラグビー界にとって、16年は再出発の1年だった。15年のW杯イングランド大会では、日本代表が南アフリカ戦で歴史的勝利。ブームの定着を狙った16年だったが、「協会は何をしている」「レフェリーがおかしい…」と聞こえてくる多くは後ろ向きな言葉だった。19年W杯を成功させたいからこそ、ラグビー関係者はそれぞれの立場で頭を抱えていた。

 年の瀬の16年12月28日。何十人もの選手が白い息を吐き、ピンと張り詰めた練習を終えた時、見守っていた指揮官は私にこんな言葉を発した。

 「関西協会って、特色を出してやってくれていると思います。こんな取り組みを、どんどん続けていってくれたらと思うんです」

 1月2日に大学選手権準決勝を戦う天理大・小松節夫監督(53)だった。今大会では関西1位の天理大が慶大を、同2位の同大が早大を、そして同3位の京産大が明大を破った。天理大と同大は4強入りをたぐり寄せ、関西勢2校の年越しは実に10年ぶり。準決勝での同大-東海大(関東リーグ戦1位)戦、天理大-帝京大(関東対抗戦1位)戦で立ち位置が分かるのだが、少なくとも近年の東高西低が縮まってきているのは明らかだ。

 なぜなのか。最大の要因は各大学の強化だ。その上で同大・山神孝志監督(50)も「リーグを考えて、いろんなことをやってくださっている」と語る関西協会の取り組みに目を向けてみた。昨春、関西学生代表は関東リーグ戦代表を花園に迎え、43-15で圧勝した。関西学生代表は15年に6年ぶりの復活を果たした。その年はニュージーランド学生代表と対戦した。


●大学ラグビー界初のリーグ命名権


 関西学生代表を率いた小松監督が、再結成の意味をこう語った。「大学生って、なかなか代表という肩書を手にする機会がないんです」。高校の有力選手が関東の強豪大学へ流れることが多い近年。必然的に関西勢の多くは自前の選手の「育て方」に目をやる。大学ラグビー選手の1つの目標はU-20(20歳以下)日本代表だ。だが、その年齢を超えてから無名選手が伸び始める事例は多い。小松監督は「3、4年生が本気でセレクションに取り組む。それで関西代表になれば、他の大学、さらには戦う相手との情報交換が活発になる。『天理はどんな練習するの?』『同志社ってこう考えているんだ』というように。間違いなく関西のレベルは上がる」。今春も代表の結成が前向きに検討されている。

 その活動費を生むのが、大学ラグビー界初の試みだ。16年9月、関西協会は物流サービス業「ムロオ」と命名権契約を結び「ムロオ関西大学ラグビーリーグ」とすることを発表した。同協会坂田好弘会長(74)はその際「ムロオの社長さんが3000万円を関西ラグビーのために使うと。そこで私は『1000万円で3年契約してください』と伝えました。新しいことは続けることに意味がある。ムロオさんには頭が上がりません」と感謝の思いを語った。関西学生代表の活動をはじめ、ニュージーランド・カンタベリー協会とのレフェリーの交換留学。新しい取り組みを現場が望むとおり、定着させるのが狙いだ。


●世の中に発信する「SNS」


 もちろん地域別学生代表、レフェリーの交換留学などが、他の協会でも行われてきた事例であることは私も知っている。私が現場で会話する中でも「○○でも前からやっている」と口にする関係者も多い。では、何が問題なのか。どうして「協会は何もしていない」と言われるのか。それは「いい取り組みを、うまく発信できていないこと」と私は思う。

 今、トップリーグ選手の多くも「関西協会すごいよな」とうなるのが、ツイッターを始めとするSNSだ。同協会のツイッターはフォロワー数1万2000人超え。12年10月、メディア関係者の助言を受けて開設後、徐々にフォロワー数を増やしている。内容は試合速報、テレビ番組情報や、新聞・ネット掲載記事の引用。寒さ対策ガイドなど多岐にわたる。参考にしたのは他競技。稽古の様子まで事細かに写真付きでアップする日本相撲協会(フォロワー数25万超え)のツイッターだった。

 今季からは関西協会の担当者が、大学B(2部)C(3部)D(4部)リーグの各大学主務とLINE(ライン)グループを作った。担当者は1人のため、A(1部)リーグの会場にしか足を運べない。そのため各会場から下部リーグの主務がLINE(ライン)へ試合結果を発信し、再確認の上、協会ツイッターに迅速に掲載するのだ。もちろん、OBやファンから好評だ。私はラグビー界が進化するためのヒントが、担当者の言葉にあるような気がした。

 「これまでとにかく情報が遅かった。試合の夜になってもホームページが更新されていない…とか。それをこちらからの積極的な情報発信に変えました。他競技では当たり前のこと。すると好循環で、各ラグビー部がSNSを強化し、試合会場で速報を発信してくださっている。考えはシンプル。昔の流れではなく、今に合わせることでした」

 2017年。大学ラグビーは関西勢VS関東勢の戦いで幕を開ける。結果はどうであれ、関西ラグビー界の前進を止めて欲しくない。そして日本全国から「私たちはこういう取り組みをしています!」という好事例が飛び交えば…。19年W杯へ、日本ラグビーは必ずや、前に進めると思っている。【松本航】

 ◆松本航(まつもと・わたる)1991年(平3)3月17日、兵庫・宝塚市生まれ。大体大ではラグビー部に所属し、13年10月に大阪本社へ入社。プロ野球阪神担当を経て、15年11月から報道部で西日本の五輪競技を担当。多競技の知識に深みを持たせるのが17年の目標。