ラグビーに携わっていると、よく耳にする。「背番号が小さいヤツほど仲間思いで性格がいい」「背番号が大きいヤツほど守る範囲が広い」…。高校から大学まで7年間ラグビーに打ち込んだ私は「あながち間違っていないな」といつも笑ってしまう。ポジションごとにあふれる個性。それがラグビーの良さだと思う。

日本代表FB五郎丸歩の背番号15(撮影は2015年8月15日)
日本代表FB五郎丸歩の背番号15(撮影は2015年8月15日)

■2・18サンウルブズ強化試合で試験的導入

 今回取り上げるのは、その背番号に関する話題。2月18日に北九州スタジアムで行われるサンウルブズ(スーパーラグビーの日本チーム)対トップリーグ(TL)選抜の強化試合で、TL選抜が試験的に「選手固有の背番号」を導入することになった。

 これまでラグビーは、ポジションごとに背番号が決まっていた。FW最前列のプロップが1番、フッカーが2番…、BK最後尾のFBが15番。16番以降は控え選手がFW→BKの順につける。18日の試合では、15年W杯の「忍者トライ」で有名になったTL選抜WTB山田章仁(31=パナソニック)が39番(普段は主に右WTBの14番)といった具合に選択権が与えられた。

 「選手固有の背番号」は将来的にTLでの導入が検討されているもので、TL以外の国際試合などでは従来のスタイルが用いられる。それぞれの選手が自分の番号を持つメリットは主に以下の通りだ。

 (1)コスト削減(各チームが選手の体格を考慮し、1つの番号で数通りのサイズのジャージーを用意しなくてよくなる)

 (2)選手のブランド化、ビジネス(背番号が選手の象徴になる。グッズ販売なども期待ができる)

 もし、15年W杯後に起こった「五郎丸フィーバー」の最中、当時ヤマハ発動機FB五郎丸歩(30)が56番のジャージーを着ていたら…。レプリカユニホームなど、五郎丸グッズを身につけるファンであふれていたと想像できる。プロ野球の永久欠番のように、選手への愛着を高める1つの要素が「選手固有の背番号」にあるかもしれない。

 では、現場はどう思っているのか。新たな取り組みを考える上で、「一個人」として答えてもらった印象的な話を紹介したい。まずはアジア初のフルタイム(プロ)レフェリーである平林泰三氏(41)。平林氏は「1ファンとしては、楽しみができていいですよね。選手を覚えてもらったり、マーケティングにも使えると思う」とした上で「試合運営上から見るとNGです」と私見を述べた。

 レフェリーは試合をコントロールする立場。細かい反則はもちろん、イエローカードによるシンビン(10分間の一時的退場)、レッドカード(一発退場)を選手に提示する場面がある。そこで懸念されるのが、対象選手の間違いだ。

 「ラグビーは1プレー、1プレーで止まらないスポーツ。野球であれば、選手の判別はできますよね。プレーが流れるサッカーでも、FW、MF、DF、GKと大まかに選手がプレーする位置が決まっている。ただ、ラグビーは人が入り乱れます。例えば(選手固有の背番号の)アメリカンフットボールを想像してください。プレーが止まらないアメフットをしたときに、誰がどんな反則をしたのか、見分けることができるでしょうか」

 タッチライン付近が仕事場のアシスタントレフェリー(AR)は、ピッチ内の主審が見られない反則などを、マイク越しに指摘することがある。平林氏によるとARは反則した選手をまず、目で追い続ける。次のプレーに走りだした選手の背番号を確認でき、初めて「○番が反則」と伝えられる。その際にもし、従来はプロップ番号である背番号3のSOがいたら…。56番と、53番と、3番が同時にプレーしていたら…。ピッチ内30人の選手に目をやるレフェリー陣の混乱によるミスが、試合を壊すリスクがある。

キヤノン戦で、ヤマハ発動機FB五郎丸歩(背番号15)は混戦の中でズボンがずれる(撮影は2015年12月26日)
キヤノン戦で、ヤマハ発動機FB五郎丸歩(背番号15)は混戦の中でズボンがずれる(撮影は2015年12月26日)

■ポジションへの理解を難しくする?

 現在解説者で活躍する元日本代表の大西将太郎氏(38)も「レフェリーと一緒で見る方も困る。ラグビーはそれぞれのプレーヤーに役割がある伝統。もっとやることは他にあると思う。『やってみよう』というレベルではなく、断固反対」と言い切る。自由に番号を選ぶことが許されたTL選抜の選手からも「変更するリスクをメリットが上回ると思えない」などという声があった。

 私も個人的に、反対の立場をとる。19年W杯日本大会に向けて、最も大切なのはラグビーファン層の拡大。「選手固有の背番号」は「ルールが難しい」と評されるラグビーにおいて、さらにポジションへの理解を難しくするのではないか。そこが引っかかる。

 もちろん、新しい取り組みには夢もある。18日の一戦を楽しみに待ちたい。ラグビー界だけでなく、さまざまな立場からこの取り組みを考え、意見を交わすことは良案につながる。最も大切なのは「あらゆる可能性を考え抜いた上での決断」になる。【松本航】


 ◆松本航(まつもと・わたる)1991年(平3)3月17日、兵庫・宝塚市生まれ。大体大ではラグビー部に所属し、ポジションはロックとフランカー。左ロックの背番号4に愛着を持つ。13年10月に大阪本社へ入社。プロ野球阪神担当を経て、15年11月から主に関西地区のラグビー担当。