4月23日、東京・足立区のムラサキパークで行われた第1回スケートボード日本選手権。集まった61人の選手たちは、ほぼ同じ人数の報道陣に囲まれながら競技をした。年齢は10歳から21歳、ほとんどが中学生か高校生だ。サッカーの高校選手権やラグビーの花園よりも小さい子どもたちが、今夏の世界選手権(中国・南京)代表の座を争う。

 30年以上も前からスポーツ記者をして、夏冬の五輪競技はすべて取材を経験している。おじさん記者の硬直化した脳みそでは、理解しがたいことが次々と起こる。3年後の東京五輪どころか、4カ月後の世界選手権のルールも決まっていない。その中で代表選考会が行われる。「とりあえず、スタートしないといけないので」と日本ローラースポーツ連盟の宮沢スケートボード委員長。普通なら大あわてになるだろうが、悠然と言うのだからすごい。

 「スポーツの世界は、五輪が最終目標にある」という思い込みも、簡単に打ち砕かれる。代表選考会に出てくる選手だから当然五輪は目指しているが「ゴールではない」と誰もが口をそろえる。報道陣は「金メダルを狙う」というコメントを取ろうと必死になるが、そんな価値観もない。

 正式に五輪採用が決まったのは昨年8月、ローラースポーツの1種目として名前がクローズアップされたのも一昨年9月だ。競泳や柔道のように「五輪の金メダル」を目指して始めた選手などいない。ほとんどの選手の夢は「海外で活躍する」ことや「DVDを出して売る」こと。そこに「五輪のメダル」はない。

 今回、海外での試合を優先して代表選考会に出なかった男子トップの堀米は、目標として「誰もやったことがない、ヤバいトリック(技)を決めること」をあげた。選手たちが勝つこと以上に大切にするのは「尊敬されること」だ。高い得点を出して優勝するより、たとえ順位は低くても誰も出来ない技で「あいつ、ヤバいよ」と言われるほうがいい。そこに、スケーターたちの価値観がある。

 サーフィンやスケートボードは、もともと「遊び」だった。音楽やファッションと同じように米国から来て、日本の若者にも定着した。そんな「遊び」が五輪競技となることに「おじさん世代」は戸惑う。もっとも、選手たちは関係ない。楽しいから滑って、楽しいからみんなで技を披露しあう。それも、スポーツの原点なのかもしれない。

 世界選手権代表選手を決めるための強化指定選手男女10人が決まってから1週間後「日本スケートボード協会(AJSA)プロツアー」が開幕した。多くの強化指定選手も出場する大会には、日本代表の西川隆監督の姿もあった。国内合宿など今後の強化スケジュールは未定。「まずは親御さんに連絡するところからですね」。強化指定選手の平均年齢は男子14・9歳、女子14・4歳。修学旅行で先生から「早く寝なさい」と注意される年齢だ。あまりに驚くことが多く、常に新鮮なスケートボード。五輪に新しい風が吹き込まれるのは間違いない。【荻島弘一】

 ◆荻島弘一 東京都出身、56歳。84年に入社し、整理部を経てスポーツ部勤務。サッカー、五輪などを担当し、96年からデスク。出版社編集長を経て、05年から編集委員として現場取材に戻る。