4月、卓球の世界選手権個人戦がハンガリーの首都ブダペストで行われた。日本勢最後の試合は28日、伊藤美誠(18=スターツ)早田ひな(18=日本生命)組が挑んだ女子ダブルス決勝。強豪中国の孫穎莎、王曼■ペアに一時は2-0とリードするも、最後は2-4で逆転負けを喫した。そこで問題となったのが、日本でも大きく報道された「誤審問題」だった。

2-2で迎えた第5ゲーム。9-9から早田のサーブに中国選手がレシーブミスし、サービスエースかに思われた。しかし、サーブがネットにかすったと審判が「レット」の判定。大型スクリーンにはスローモーションで、ネットに当たらず相手コートに球が入る映像が流れた。

2人はスクリーン映像を「見て」と審判に抗議。それでも判定は覆らず、女子代表の馬場監督がタイムアウトを取った。その直後のプレーで、中国が得点し、9-10。そのままそのゲームを落とし、流れは完全に相手に行った。

記者がインターネットの試合映像でスローモーションを何度見ても、早田のサーブ球はネットにかすってもいない。今年に入り本格的に卓球担当となったばかりの記者がこの競技に触れ、真っ先に思ったことは「球の動きと試合展開が速すぎて、肉眼では細部まで追い切れない」ということ。それでも主審と副審は肉眼のジャッジを信じ込み、映像確認をせず、早田にサーブのやり直しを命じる一点張りだった。

肉眼で追うには限界がある競技のジャッジに、ビデオ判定がない。これまでどれだけグレーな判定があったのだろう…。

関係者によると14年、東京で開催した世界選手権団体戦でビデオ判定導入に向け動いていたが、直前になって国際卓球連盟(ITTF)から計画の中止が通達された経緯がある。

日本協会は、みまひなの決勝後、即時、抗議文をITTFに送付した。今後のビデオ判定導入も要望した。一方で、ビデオ判定が平準化すると、難しい問題も出て来る。国内の地方大会でも設置義務が生じると、設備費用がかさみ地方協会のお財布事情を圧迫する。今年1月の全日本選手権でも最大、22コートもあった。例えば大会初日は約300試合が行われたため、その1つ1つでビデオ判定を実施したら、試合時間の長期化にもつながる。そのため、国内、国際大会においても決勝、準決勝などのビッグマッチだけ導入するなどの議論もある。

ITTFは日本協会の抗議文に対し「検討する」との返答をした。「誤審問題」を被った伊藤自身もビデオ判定導入に「もちろん賛成です。人間の目は100%正しいことは難しい。特に卓球は(球の動きが)速い競技なので。他のスポーツでも取り入れている」と話している。

サッカー、ラグビー、同じラケット競技のテニス、バドミントンでも微妙な判定を「機械の目」に頼るビデオ判定やチャレンジ制度が導入されている。そんな中、卓球は、肉眼だけでは追い切れない超高速スポーツなのに、いまだ「人間の目」だけに頼っている。

来年には東京オリンピック(五輪)が控えている。正確なジャッジはアスリートファーストの根幹。ITTFが英断し、導入にかじを切るべきだ。「史上最もイノベーティブな大会」を目指している東京五輪大会組織委員会のサポートも必要になってくる。【三須一紀】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

※■は日の下に立

優勝した中国ペアが優勝トロフィーを持って喜ぶ中、銀メダルにも笑顔がない、左から早田ひな、伊藤美誠(2019年4月28日撮影)
優勝した中国ペアが優勝トロフィーを持って喜ぶ中、銀メダルにも笑顔がない、左から早田ひな、伊藤美誠(2019年4月28日撮影)