「ご飯、フリー。うれしいね ! 」。トンガ出身のラグビー日本代表候補・中島イシレリ(29=神戸製鋼)が、難しい挑戦に、陽気にぶつかっている。

NO8として昨季のトップリーグ「ベストフィフティーン」に選ばれ、昨年11月のニュージーランド戦で日本代表デビュー。そんな遅咲きの29歳が、ワールドカップ(W杯)イヤーのスタートとなる19年1月、驚きの決断でファンを驚かせた。

高校生以来という、プロップへの転向だ。「将来を考え、長くラグビーをやりたかった」。そう、まじめに理由を語ったかと思えば、「1番(左プロップ)は仕事も少なそうだし、体重も気にしなくていいからね」。冗談っぽく笑い飛ばす姿には、併せ持つ豪快な魅力もにじみ出た。

代表レベルでは異例のポジション変更だが、同じタイミングでその挑戦を考えていたのが、日本代表のジョセフ・ヘッドコーチだった。186 センチ 、120キロの体を生かした当たりの強さにプロップとしての適性を感じていた指揮官は、「1番に集中してくれ」と、2月からの代表候補合宿にプロップとして中島を呼んだ。最大の課題はスクラム。日本代表の長谷川慎スクラムコーチのもと、猛勉強の日々が始まった。

祖父が元トンガ代表主将という家庭に生まれた7人兄姉の長男は、15歳でラグビーを始め、18歳で来日。流通経大ではロック、NO8として1年時から活躍したが、最大150キロあった体重も影響し、NEC時代にはケガに泣かされた。飛躍のきっかけは、15年の神戸製鋼への移籍だった。「プレーを変えたかった」と、多いときは一晩で3食とっていた食事を見直し、約30キロの減量に成功。運動量が増えるなど、プレーが向上したことで、出場機会も増えていった。昨年11月に、「考えてもいなかった」という代表デビューを果たすと、14年に結婚した日本人の夫人は泣いて喜んだという。

プロップとして初めての試合は1月のカップ戦。パソコンで映像を見ただけの、ぶっつけ本番でスクラム最前列に入り、体を張った。トップレベルでのスクラム経験は初めて。「2週間ずっと腰が痛かった」と振り返ったが、その後の代表候補合宿、強化試合で経験を積み急成長。首脳陣も驚くほどの適応力の高さで、技術を身につけていった。

転向から約5カ月。スクラムについて、中島は「最初は力で押すだけできつかったが、今はだいぶ慣れてきて、楽しい。スキルが身についたことで、どう組んで、相手をどう止めるとか、頭を使えるようになった。自分でもここまで出来るとは思わなかったし、慎さんのおかげ。今思えば、挑戦するのにちょうど良いタイミングだったと思う」と手応えを語る。

プロップとしての楽しみは「食事」。転向前は、意識的に120キロ以下をキープしていた体も、プロップとしては“重さ”も重要な武器となる。だが、好きな食べ物トップ3を聞くと、「3位は焼き肉、2位はラーメン。1位は…おでん」。おでん!? 意外に感じ、その理由を聞くと、「こんにゃくとかね。おなかがすいて夜に食べても、太らないから」と“自制心”も忘れていない。現在の体重は123キロ。W杯開幕まで、4カ月。29歳の挑戦に注目だ。

【奥山将志】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

日本代表候補のオーストラリア遠征に参加する中島イシレリ(左)(2019年5月14日撮影)
日本代表候補のオーストラリア遠征に参加する中島イシレリ(左)(2019年5月14日撮影)