7月31日、都内でイベントに出席した水谷隼(撮影・三須一紀)
7月31日、都内でイベントに出席した水谷隼(撮影・三須一紀)

16年リオデジャネイロ・オリンピック(五輪)で男女を通じて日本人初となる五輪卓球シングルスのメダリストとなった水谷隼(30=木下グループ)は6月14日、ツイッター上で体重66キロから60キロへの減量を宣言した。期限は約2カ月後。この時点で既に細身の水谷が6キロも痩せることに、心配すらした。

7月31日に出席したイベントでは62・7キロまで落としたと言い「完全独学。水谷ダイエット法。水分を減らすんです」と語った。この日は東京都心で34・6度を記録した暑さの中、周囲から「大丈夫?」と心配されるほど。それでも「水分をとらないと結構、気持ちの良い体になる」と笑うと、周囲はさらに驚いた。

このダイエットが直ちに競技力向上に直結するのかと疑問がわき、本人に聞いてみた。

「何かに挑戦するということが目的。卓球自体でそれをやるのではなく、何か別のものでやることで心が前向きになれる。それが今回、減量だった」

三十路(みそじ)を迎え、あえて脇道にもそれてみる。「好奇心もあります。精神的なものですね」。ゴールへ向かう道は1本である必要はないということだ。

水谷の話はいつも興味深い。さまざまな「思考」が詰まっていて、記者の質問意欲をかき立たせる。

ショーアップした卓球会場でのLED広告看板に対する意見でもそうだった。ショーアップにより収益性を高めることも必要だが、質の高い競技性を守ることも大切。水谷の発言は両者に一石を投じた。双方の議論が深まることで、競技は発展していく。そのどちらが欠けても、まっとうな発展は遂げない。

水谷は収益力の重要性も理解している。実際に、Tリーグの運営に対する持論も報道陣の前で述べている。熟慮した上で、メディアの前で有効的な意見を述べている。

アスリート自ら運営や経営に対する意見表明をすることは珍しくなくなった。だが、決して多くはない。

15年7月。ザハ・ハディド氏による新国立競技場の設計案が安倍首相の一声で白紙撤回になった。高騰する建設費に国民の非難が集中した結果だった。2500億円もの大金をつぎ込んで建設しても毎年、大赤字を垂れ流す「ホワイトエレファント」と、国民から大批判を受けた。8万席という巨大な受け皿に見合う競技がなかったことも問題点に挙がった。

新国立論争で、スポーツ界に対し、収益化の自助努力が必要との指摘も相次いだ。しかし、新国立を使う競技の元選手らが発言する機会はあったものの、現役や引退選手を含めたアスリート側の意見に、それらの指摘に正面から回答したものは、ほとんどなかった。当時、社会担当記者として取材していた私は、違和感を感じた。

選手に専門外である運営や経営の本筋論を求めるのは酷だが、例えば収益力アップの施策に、選手がどこまで歩み寄れるかなど、具体的な考え方は述べるべきではないか。主役である選手こそが、競技の現場を1番熟知している。

もちろん、表に出ていないだけで、選手側が運営側と共同作業で収益向上を講じているケースもあるだろう。それらも含め今後、スポーツ界がさらに発展していくため、選手側が運営側に対し、積極的に建設的な意見を提案していくべきだろう。これまでの「スポーツは神聖」という考え方だけでは、持続可能なスポーツ界はつくれない。【三須一紀】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

水谷隼
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