大根はもともと透明に近いってご存じでしたか? 

先日、子どもと教育番組を見ていたら、大根はもともとは透明に近い細胞や繊維質でできており、その間の細かい空気が反射、屈折しているので白く見えると、目からうろこの説明されました。煮ると透明のようになるのは、空気が減り、本来の色が見えるようになるから、だそうです。


「透明」という言葉に敏感に反応してしまったのは、先月9日に参加した日本体操協会による、今年10月に北九州で開催される体操、新体操の世界選手権の使用器具の選定会議があったから。そこでは、スポーツ庁が策定したガバナンスコードに見合う「透明性」の確保を掲げ、迷いながら動く中央競技団体(NF)の姿が浮かび上がっていた。


「7項目で審査しました結果、セノー・スピース様が総合得点600点、タイシャン様がが609点。小差ですがタイシャン様に決定しました」。

3月9日午後7時すぎ、自宅から参加したリモート取材でそんな声が流れた。同5時から行われていた選定会議では、体操器具メーカー2社の合同であるの「セノー(日本)、スピース(ドイツ)」陣営と、タイシャン(中国)陣営の2社がプレゼンテーションをし、その後の選定委員会の協議で決定する過程を報道陣に公開した。NFとして、大会の器具の決定を公開することは初と言っていい試みである。

先の東京オリンピック・パラリンピック組織委員会でも話題になった「透明性」。森喜朗前会長の女性蔑視発言による辞任を受けた後任人事で、候補者選定委員会の会議が、委員の名前を非公表、すべて場所時間を非公開で決定がなされ、「密室」という批判を浴びたのも記憶に新しい。日本連盟はこの世論にも左右されながら、スポーツ庁の掲げる旗頭に追従するために、器具を決定する様子を公開に踏み切った。

ガバナンスコードにはNFが順守しなければならない13の原則が示されており、今後はこの原則への適合状況を毎年公表(自己説明)するとともに、4年に1度定期的な審査(スポーツ団体ガバナンスコード適合性審査)を受ける必要がある。その説明へ向けても、プラス要素として考えて決断した。

進行は以下のように行われた。

入札参加者への日本連盟からの説明→コインを使った順番決め後に、各陣営の10分間のプレゼンテーションと質疑応答(オンラインで、競合相手は見ることはできない)→選定委員9人による審査、点数付け→結果発表。結果としてタイシャンが選ばれた。

ただ、この過程すべてを報道陣が視聴できたわけではなかった。提供された情報は「7項目で審査し、セノー・スピースが総合得点600点、タイシャンが609点」という検査結果のみであり、どのような議論が行われたか、各委員の項目ごとの点数配分などは開示されなかった。そして、各陣営の具体的な提示金額も非公表となった。

この事情について、後日に日本連盟に聞いた。まず、7項目の具体的な内容、各選考委員の点数については、今後開示していく方針であること。そして入札金額の提示に関しては、参加社の他の入札への影響を考慮したという。日本協会の顧問弁護士にも相談し、この金額を報道陣に決定前に開示した場合に、後日に逆に訴えを起こされる可能性を示唆されたため、非公表となったという。

後日に理由を聞いたのは、一部の非公表で思い出した例があったためだ。15年、柔道担当時代のこと。当時の山下泰裕強化委員長は、世界選手権代表を決める強化委員会を報道陣に公開する方針を示し、「日本のスポーツ界でも選考に不信感を抱く選手は多かった。透明化を図るため、柔道界が1歩踏み込んでやってみたい」と説明した。

この頃から叫ばれていた「透明」だが、この時は「透明度」に大きな疑問が残った。代表を決める強化委員会は2回あった。4月の選抜体重別選手権後、そして同月の男女の全日本選手権後。最初は男女7階級のうち男子は100キロ、100超キロ、女子は78キロ、78キロ超級を除く5階級の代表を決める。全日本の後を受けた2回目の委員会で、重量級を決め、そしてこれが重要だが、世界選手権は7階級+2人の代表を派遣でき、どの2階級に2人目を割り振るかを決める。

毎年、この2枠目こそが、各所属の綱引きが繰り広げられ、納得と不満を抱合し、火種になり得る議案だった。つまり、強化委員会の焦点は、ここにあった。

だが、山下強化委員長は2回目の委員会を非公表にすると一方的に報道陣に通達した。それでは公表という意義は半減どころではないという反論を受けながらも、最終的には強行した。当時も疑問をぶつけたが、これは「報道陣を利用した透明性という言葉の恣意(しい)的な乱用」ではないか。納得できなかった。

翻って、体操の案件である。具体的な金額の「非公表」という事では、一部の重要な情報の非提示で柔道と相似のように思えたが、内実は違い、そこに難しさがあった。取引先への不利につながる情報であり、訴えられるリスクがある。聞けば、納得できる理由だった。

おそらく、今後もガバナンスコードを推進するにあたり、同様の線引きの問題は頻出するだろう。何を公開すればいいのか、どこまで公開すればいいのか、報道陣に公開することがすべからく透明性の必須条件なのか。スポーツ庁は具体的な指針を示していない。各NFごとの事情に鑑みた面もあるが、「透明性」をノルマとされたおのおのが判断を迫られる。それが現状だった。

そもそも、である。大根と違って、元は透明ではないのだから、煮詰めても透明になることはない。透明にできない事情も出てくる。旧態依然からの脱却を目指す動きを歓迎しながら、その難しさも感じる一件だった。【阿部健吾】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)