スポーツ担当ではあるが、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長(72)を取材する機会があった。最近では、東京五輪・パラリンピック開催に伴う新型コロナウイルス感染拡大のリスク提言を発表する数日前。発表日程や内容を取材しようと、他の記者とともに、政府に出入りする尾身氏を囲んだ。

16日の分科会終了後の会見で、イベント開催条件について「五輪とは関係ない話として了承した」と発言した。五輪に準用される見通しとなるだけに、「五輪とは無関係」発言に質問が集中した。

尾身氏は翌日に控えた首相会見で、五輪関連の質問が矢継ぎ早にあるのではと言われても「今日(=分科会後の会見)と一緒でしょう」。別に何かありますか、といった感じで平然としていた。何度か政府内で見かけたが、悠然と歩き、小走りや早歩きする姿を見たことがない。常にトーンが変わらず、ひょうひょうとしている印象を受けた。

ある政府関係者は尾身氏の印象を「つかめない。なかなかのお人です」と言った。「官僚に対して『国会答弁では、どこまで踏み込んで話してよいのか』などと質問し、説明にしっかり耳を傾けます。官僚は『ここまでは言ってくださって大丈夫です』などと説明するのですが、いざフタを開けると、まるで話し合いがなかったかのように、踏み込んで答弁されていました(笑い)」。百戦錬磨の官僚も戦々恐々としていた。

有志でのリスク提言などで、政府との間の溝は確実に生じている。一方、首相がG7で開催を表明したからと、提言には中止や延期に関する言及を盛り込まなかった。専門家としてきっちり仕事しつつ、政府が受け入れられる余地も残しているかのようだった。

首相会見でも、いつもどのような質問にも抜かりなく答えている。官僚が用意したペーパーを棒読みする首相よりも、よほど政治家らしく見えてならない。【近藤由美子】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)