東京オリンピック(五輪)開催に至るまでの過程を取材していくにつれ、コロナ禍での開催に対する疑問や不安が、いつのまにか不信感に変わってしまった。それは閉幕した今も強まっている。

その理由の1つは、取材を通して感じた、国際オリンピック委員会(IOC)と、開催都市の東京都、及び日本政府とのいびつな関係だ。

IOCのトーマス・バッハ会長が閉幕翌日に東京・銀座を散策した。大会中、選手の観光を禁じていただけに、IOCトップとして示しがつかないのではないか。都内は緊急事態宣言が発令中で、不要不急の外出を控えるように求められている。バッハ氏の行動に疑問を感じ、丸川珠代五輪相が行った10日の閣議後の会見で、“銀ブラ”への見解について質問した。

丸川氏は防疫措置を講じて14日間経過していると強調した上で「不要不急かどうかは、本人がご判断されることだと思います」とちゅうちょなく答えた。政府の五輪トップがIOCに、ひと言ももの申せないのか。あきれるのを通り越して悲しかった。

開催都市に五輪をやらせてあげている。開催国はIOCの言うことを聞いていればいい。大会延期1年前から取材を始めた私でも、この姿勢を随所に感じた。

マラソンの札幌移転も急にIOCが決めた話だった。東京都が暑さ対策など時間をかけて進めてきても、結局は無視された形になった。女子マラソンは大会前日、1時間開始時間が繰り上げられた。ある大会関係者は「いろんなことを準備して積み上げても、IOCにいきなり決められちゃう。IOCがよくやるパターンですよ」と嘆いていた。

政府関係者によると、経費削減のための大会簡素化について、IOCと日本側の水面下の交渉では、IOC側は簡素化どころか自分たちのもてなしを要求する場面もあった。「コロナでどこにも行けないから」と、飲食が自由にできるラウンジの開放やスポーツ施設の提供など、IOC関係者のホテルライフ拡充を日本側に求めてきたという。

当時、関係者は「我々をもっともてなせとは何なのか」と絶句。さらに「IOCは(昨年)3月に中止にしても良かったけど、日本が延期したいと言ったんだから、延期するなら日本が金を払え、という雰囲気になっていて。恩を感じて何でもやれよ、という雰囲気ですよ」。そう嘆いていたことが忘れられない。

IOC広報部長は会見で、感染拡大と五輪の因果関係を「パラレルワールド(別世界)のようなものだ。五輪関係者から感染を広げていない」ときっぱり否定した。コロナとの闘いが終わらない中、大会をサポートする日本の医療関係者に対して敬意がない。コロナ禍で苦しむ日本人に、少しでも寄り添う気持ちのかけらも感じられなかった。

IOCに有利な条件で結ばれた開催都市契約は「不平等条約」「奴隷契約」とも言われている。取材を通じてその言葉を実感した。【近藤由美子】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)