礼儀やあいさつ、コミュニケーション能力、上下関係の理解…。

体育会系の強みってなんだろう? 

そんな素朴な調査結果を掘り下げてみると、見えてくるものがあった。

5月17日、都内で「社会で活躍する“アスリート人材”とは? ~大学スポーツの可能性と運動部学生のキャリアを考える~」と題したセミナーが行われた。

ラグビーで帝京大を10度の大学日本一に導いた岩出雅之氏(64=現帝京大スポーツ局長)らが登壇。まず示されたデータがあった。


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【運動部の活動を通じて身に付いたと感じている強み(22年マイナビ×UNIVAS 運動部学生の就職に関する意識調査より)】

◇礼儀、あいさつ 81・0%

◇コミュニケーション能力 68・9%

◇上下関係の理解 67・7%

◇チームワーク 62・4%

◇体力 62・2%

◇忍耐力 62・1%

◆責任感 59・3%

◆行動力・実行力 53・6%

◆持続力 46・4%

◆目標設定力 44・6%

◆チャレンジ志向 43・8%

◆達成志向 42・0%

◆リーダーシップ 32・0%


 ◇   ◇   ◇


初めにマイクを握ったのは岩出氏だった。昨季まで現場でラグビー部の指導に携わってきた経験を踏まえ、率直な感想を明かした。

「これまでの体育会系が持っていた要素と思います。責任感より下(◆)が本来はもっと高まらないといけない。(◇の)礼儀、上下関係、体力、忍耐…。指示や命令で動くタイプが、世の中で通用するか。受け身な体質から、能動的にならないといけない。柔軟に、状況判断する資質が求められていると思います」

上記は運動部の学生自身が「身に付いたと感じている強み」のデータだった。被検者が上記と同じではないが、セミナーでは別の興味深いデータも示された。


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【運動部学生やOBに見受けられる適性(マイナビアスリートキャリアを利用し、適性検査を受検したユーザー1853人の平均値=10段階評価)】

◆達成志向 6・44

◆チャレンジ志向 5・66

・自律、責任性 5・58

・革新的 5・56

・持続力 5・52

・活動力、行動力 5・06

◇規範的行動 4・88

◇コミュニケーション 4・58

◇協調、協力性 4・32

・熟慮、慎重 4・16


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登壇者の1人であるマイナビの木村雅人氏(アスリートキャリア事業室長)は、企業側の視点を踏まえて2つのデータを比較した。

「運動部の学生が『身に付けたと思っている』能力(◇が上位)と、適性検査で見えた結果(◆が上位)が異なります。学生、企業の双方にとって良くない状況になっています。双方が勘違いしながらプラスの部分を見ていて、本来は評価されるべき能力がスルーされていると考えられます」

セミナー中に興味深い話があった。1つ目のデータで低い数値だった「リーダーシップ」が持つ意味だ。

大学スポーツ協会(UNIVAS)の理事で立命館大の副学長を務める伊坂忠夫氏は「『俺についてこい!』だけではない。多様性の担保とも言える」と分析した。単語は同じでも、実際に求められているものが変わってきているという。

岩出氏は帝京大の監督時代に東京サントリーサンゴリアスCTB中村亮土(30)、トヨタヴェルブリッツNO8姫野和樹(27)ら、日本最高峰「リーグワン」でも主将を任命される人材を育成してきた。指導現場では伊坂氏の考えに共通する肌感覚があったという。

「リーダーシップも昭和のように『俺についてこい!』でなく(仲間の)近くまでいって、肩をトントンとしながら巻き込んでいく。指導者は『管理』と『放任』の間のところで接する。世の中に求められるものが高くなっている半面、入ってくる学生は少子化で大事に育てられて、幼くなっています。『管理』しても『放任』でもダメ。学生たちが自らチャンスをつかむ力を育てないといけない」

帝京大が前人未到の全国大学選手権9連覇を達成した09~17年度、上級生が雑用をこなす同大学のスタイルは“体育会系の常識”に一石を投じた。セミナー終了後、岩出氏は「あの時は(上下関係が)フラットなことをたくさん取り上げていただいたけれど、今はどこもフラットになってきましたよね?」とほほえんだ。大学に新設されたスポーツ局の局長に肩書を変えても学ぶ意欲は衰えず、まずは学内、そして日本スポーツ界や社会へ貢献を志す。

「(ラグビーの)戦術は機密性が高いということもありました。(これからの仕事では)ドクターの学会発表のように、同じような考えを広げていくこともできると思っています」

創設4年目を迎えた「UNIVAS」は、国内219の大学が加盟する大きな組織へと成長した。

目の前の勝ち負けだけでなく、大学スポーツの可能性も興味深い。【松本航】


◆松本航(まつもと・わたる)1991年(平3)3月17日、兵庫・宝塚市生まれ。武庫荘総合高、大体大ではラグビー部に所属。13年10月に日刊スポーツ大阪本社へ入社し、プロ野球阪神担当。15年11月からは五輪競技やラグビーを中心に取材。21年11月からは東京本社を拠点に活動。18年平昌、22年北京五輪と2大会連続でフィギュアスケート、ショートトラックを担当。19年はラグビーW杯日本大会、21年の東京五輪は札幌開催だったマラソンや競歩などを取材。

大学スポーツに関するセミナーに登壇した左からマイナビの木村雅人氏、帝京大の岩出雅之氏、大学スポーツ協会の伊坂忠夫氏(撮影・松本航)
大学スポーツに関するセミナーに登壇した左からマイナビの木村雅人氏、帝京大の岩出雅之氏、大学スポーツ協会の伊坂忠夫氏(撮影・松本航)