ソフトボール女子の日米対抗が8日まで行われ、日本は福島県営あづま球場での2試合、横浜スタジアムでの1試合を2勝1敗で勝ち越した。金メダルに輝いた昨夏の東京オリンピック(五輪)以来1年ぶりの国内での国際試合だった。

この大会、上野由岐子投手(40=ビッグカメラ高崎)は欠場した。

経験伝授に集中した。

08年の北京五輪と21年の東京五輪で優勝に導いた大エースは、今回の3連戦すべてベンチ入りしてアドバイス。1年前に金メダルをつかんだ横浜スタジアムで米国と再戦した8日には、新生ジャパンの再スタートを最前列で見届け「やっぱり、まだ若いなあ」と笑顔を見せた。

後継者として期待される先発左腕の後藤希友(21=トヨタ自動車)は7回3安打11三振で代表初完封。それでも、レジェンドとしては厳しく教えたくなる。

「自分も同じタイプの投手だからこそ言えますが、今だから(若いから)できる投球。それが後藤の良さで、あれだけ力のある投球は魅力的で、もっともっと伸ばしてほしいし、自信にもしてほしい。でも、いずれそれだけでは通用しなくなる時がくる。もっと周りが見えるようにならないといけないし、いろいろな経験を積んでほしい」

後藤は2日前の第1戦も完投。7回を毎回の13三振で1失点に抑えた。

「いいイメージがあるかもしれないけど、前回とは違うよ、今日はもっと米国が食らいついてくるよ」と試合前に伝えた。「体の感じも違ってくる」と疲労の蓄積にも注意させた。

金言通り、後藤は体が重くなったと感じた5回に3連打を浴びた。原田のどか中堅手の補殺に救われたものの、内野の頭を越されるようになっていた。

「疲労感がたまるとボールが浮いてくるから気をつけて、と上野さんから言われました。確かにコースが良くても高くなるとポテンヒットになってしまったり」

上野も指摘する。「なぜファウルにされるのか、とか、今日の風だと打球がどこに飛ぶのか、とか、どこまで自分が疲れているか、を理解できるようにならないと」。ただし「あまり気負わせないようにはしています。今できることではないので。いずれ分かる。それが5年ではなく2年にしてあげることが私の役目」と引き続き、後輩を支えていくことを約束した。

自身はコンディション不良で、今季はJDリーグ(旧日本リーグ)でも登板がない。「まだ皆さんの前で投げられる状態ではない。年齢的にも(数々の負傷が)ぶり返さないように」と五輪翌年はしっかり休養する構えだ。

一方で「選手として、まだまだやれるかなと正直、感じています。ただ、それだけではなくなっている。求められているものがあるので、両立させたい」と指導も並行する。その中で笑い飛ばした。

「ここまで経験させてもらって、今回、いかに周り(チームの若手)が無知か分かりました。教えがい、伝えがいがありますね。(再び後藤に)壁にぶち当たった時、くじけずにやってもらいたい。今は荒いけど丸くなる。今は年相応のピッチングをしつつ…もちろん、可能性は無限大にあると思っているので」

あとは競技の五輪種目復帰を信じる。24年パリ五輪では除外されたが、28年ロサンゼルス五輪で再び野球・ソフトボールが復活する可能性がある。9候補には選ばれた。来年の決定を待つ。試合後も、無観客だった東京五輪と違い1万2655人が詰めかけた球場のマウンド前で「LA2028」と並べられたボールの前で、米国代表と一緒に記念撮影した。

「私たちの思いを知っていただくための今回の日米対抗でもありました。見に来てくれたファン、メディアの方々を通し、どれだけ伝えることができたか。伝えていけるか。去年も、このくらいのお客さんが入ってくれたのかなあと思うと残念ではありましたけど、その分、今日はうれしかった。ただそれだけです」

今後も魅力発信に力を注ぐ。選手としても指導者としても、まだまだソフトボール界の顔として日本の進化に貢献する。【木下淳】

(ニッカンスポーツ・コム/コラム「We Love Sports」)

21年7月27日、東京五輪決勝米国戦に先発した上野由岐子
21年7月27日、東京五輪決勝米国戦に先発した上野由岐子