いよいよノックアウトステージに入るFIFAワールドカップ(W杯)カタール大会を、独自の視点で楽しむ人がいた。

柔道のグランドスラム(GS)東京大会(3日から東京体育館)開幕前日の2日、全日本男子の鈴木桂治監督(42)が都内で報道対応し、W杯に言及した。

昨夏の東京オリンピック(五輪)以来となる自国での国際大会へ「(24年)パリ五輪を目指している選手にとっては非常に重要で、道を切り開いていく大会になる」と躍動に期待。一方で、記者団の質問に応じる形で沸騰中のサッカー日本代表に触れた。

森保一監督(54)率いる日本が2日朝、W杯で2大会連続のベスト16入り。1次リーグ最終戦でスペインに2-1で逆転勝ちし、ドイツも同居した「死の組」E組を首位突破した。

快挙に「朝から興奮しっぱなし」と頬を緩めたが、すぐ引き締めた。大会前の予想を覆した決勝トーナメント進出も「その他のチームが気になりますね。例えばアルゼンチンが(初戦でサウジアラビアに)負けたり、ジャイアントキリング(大番狂わせ)が非常に多い大会だな」と印象を語った上で、独自の視点を紹介した。

「その中で自分が目をつけたところは、日本の活躍はもちろんですけど、ジャイアントキリングされた側なんです。日本に敗れたドイツやスペインといった大国が気になりますね」

かつてサッカー少年だった鈴木監督。04年アテネ五輪の男子100キロ超級で金メダルに輝き、現在は日の丸を背負う男子代表を束ねる。発祥国として世界をけん引する立場から、サッカー界では強豪国の側に立って、ある種の“上から目線”で中継を見ていた。

「ドイツ、スペインのような国は、本大会では格下と呼ばれる国と戦うことが多い。日本の柔道は、そちら側になります。何が負けを招いたのか、敗因は。どのような気持ちで日本と戦ったのか。強国の側に立って試合を見ると、気が引き締まります。日本の勝利を『100%喜ぶ』というより、怖いな、という気持ちで見ていました」

国民のために勝利を目指す森保ジャパンの気持ちは分かる。しかし、日本で3年ぶりに開催となる柔道GS東京を前に、鈴木監督は勝負師モードに入っていた。

「もちろん全力で戦った日本の活躍は素晴らしいんですけど、負けた側の気持ち、戦い方、心理状況も知りたいなと思ってしまうんです」

東京五輪で7階級のうち5階級で金メダルをつかんだ日本男子。パリ五輪へ、ディフェンディングチャンピオンを抱えながら、かつ次代の育成も担う鈴木監督にとって、ドイツとスペインを初めて倒した日本のように突き上げる国、南米や欧州を苦しめたアジアのような地域は自然と警戒してしまう。

「絶対に負けられない戦い」。柔道界ほど顕著な競技もない。自身に置き換えると、背筋が伸びた。「日本、やったー! という気持ちよりも、勝負って怖いなっていう気持ちになりながら」挑戦を受ける側の心理でW杯から学んでいる自分がいた。

日本は6日深夜0時の決勝トーナメント(T)1回戦で、前回準優勝のクロアチアと対戦する。

「決勝Tで日本がどのような戦い方をするのか、優勝を目指している国がどういう対応をするのか、いろいろな目で見ていこうと思っています」

ここから先、新たな景色の初のベスト8を目指すサムライブルー。野心あふれる戦いも楽しみだが、一発勝負で下克上を許さないV候補の立ち居振る舞いも参考にしたい。

迎え撃つ姿勢で、五輪と同じ4年に1度の祭典を楽しむ柔道家の視点もまた、数多いW杯の楽しみ方の1つのようだ。【木下淳】

(ニッカンスポーツ・コム/コラム「We Love Sports」)