「カーリングの街」である北海道北見市に、オリンピック初出場を目指す男子チームがある。

KiT CURLING CLUB(キットカーリングクラブ)。

18年平昌五輪を経験した平田洸介(30)が、生まれ育った地で立ち上げたチームだ。

2月、日本選手権に「北見協会」の名で出場した男たちは準優勝を飾った。

決勝はSC軽井沢に2-6で敗戦。世界選手権(4月、カナダ)の切符獲得へ、あと1歩に迫る結果だった。

「そんな状態になるんだったら、棄権した方がいいんじゃないか?」

大会中、こんな厳しい言葉が飛んだ場面があった。

9チームの予選リーグを7勝1敗の1位で通過。決勝トーナメントの初戦で、予選では勝利したSC軽井沢に9-11で敗れた。わずか3時間後の準決勝で勝利すれば、SC軽井沢と決勝で再戦することができた。

だが、チームの落胆は大きかった。

ある者は仲間と離れた場所でうずくまり、個でバラバラになった。

下を向く選手に厳しい言葉をかけたのは、オフ・アイス・コーチを務める二ノ丸友幸(43)だった。日本一の目標が途絶えていないにもかかわらず、集団が個になったチーム。継続して向き合う課題を露呈した。

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二ノ丸はかつてラグビーの日本最高峰リーグ「トップリーグ(現リーグワン)」でプレーした。クボタスピアーズ(現クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)で現役引退後は社業に専念して管理職を経験。退職後はプロコーチとして全国高校大会(花園)準優勝4度の御所実(奈良)など全国の高校を指導している。縁を引き寄せたのは平田だった。

新型コロナウイルスの感染拡大が迫っていた2020年1月、北見市ラグビー協会の指導者セミナーが開かれた。

北見北斗高時代の平田はラグビー部に所属し、花園出場を果たした。コーチに対するコーチの位置付けもこなす二ノ丸が講師として北見に来ることを知り、協会関係者へ「セミナーを受講していいですか?」と申し出た。当日、二ノ丸の話に耳を傾けると、チームに欠けている部分を補うことができる気がした。

そうしてカーリングは“素人”の二ノ丸を「オフ・アイス・コーチ」としてチームに迎えることになった。

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二ノ丸にとっても、新たな挑戦だった。

緊急事態宣言が発令され、オンラインで実施した春の第1回ミーティング。選手たちが発する言葉に、重みを感じられなかった。

「カーリングはメンタルスポーツであり、コミュニケーションスポーツです」

「日本一から、世界一を目指したいです」

当時を振り返って言う。

「はっきりと『このコミュニケーションレベルで? このコミュニケーションレベルでは目標は達成できていないし、夢で終わるぞ』と伝えました。本音を言い合わない集団でした」

二ノ丸が“参謀”として携わる御所実ラグビー部は62歳の監督、竹田寛行が意思疎通を大切にチームを作ってきた。

学年の垣根を越えて自らの考えを伝え、仲間の助言を聞く習慣が土台としてあった。日々のミーティングはもちろん、寝食を共にする合宿、時にはキャンプ場でテントを張り、部員たちは深い関係を築いてきた。

だがあの日、画面上で初めて顔を合わせた選手たちが、本音を口にしているようには到底思えなかった。

「大人だからこそ『大人な対応』を取っているように感じました。『これを言ったら雰囲気が悪くなる?』と思い、本音を言わない」

3カ月後、ステージを「他者評価の言い合い」へ移した。二ノ丸がバランスを取ってミーティングを進めながら、選手は思いの丈を仲間にぶつける。氷上に立てば4人の選手で作戦を練り、遂行するカーリング。1人でも違う方向を向けば、それが敗戦に直結する。競技外からの知見で、チームの方向性が少し見えた。

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迎えた22~23年シーズン。9月にはコロナ禍で中止が続いていたカナダ合宿を行った。平田らの意向もあり、宿はホテルではなくシェアハウスとなった。これも意思疎通が目的だった。

二ノ丸は就寝時以外はリビングで過ごすルールを設けた。さらに午前6時に全員で起床し、30分後にジムでのトレーニングを開始。それぞれが料理など生活の役割を担い、二ノ丸も毎日掃除機をかけた。午前、午後の練習を終えると、夜もリビングで過ごし、時に酒もたしなんだ。そうしてチームはまとまり始め、シーズンへの手応えがあった。

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それから約半年後、今季の集大成となる全日本選手権は準優勝という結果が残った。優勝と準優勝の違いは大きい。平田は言った。

「悔しい。やってきたことを最後のファイナルで出せなかった。ここまでくれば優勝しか目指していなかった。他のトップチームと違い、僕たちは下積み時代が長かった。踏まれても、踏まれても、強く攻めていく。それが僕らの雑草魂」

シーズン中は二ノ丸の御所実時代の教え子で、日本代表キャップを持つ、リーグワン「埼玉パナソニックワイルドナイツ」の竹山晃暉と交流した。埼玉は国内最高峰リーグで、2連覇を目指して連勝街道を走る。情報交換し、強さの理由を考えたという。

カーリング界でも日本選手権の女子で、北京五輪銀メダルのロコ・ソラーレが頂点に立った。

国内外で試合をこなしながら、苦しい状況下でも、強敵を相手に最後は勝ちきる姿がそこにあった。二ノ丸はあえて選手に伝えた。

「『苦しい展開、状況でも、ロコ・ソラーレは優勝で終わるよね』という話をしました。竹山がいるワイルドナイツもそう。どんな状況でも、チームで新しい何かを試している最中でも、最後は負けない。やはり五輪を目指す以上、優勝にこだわらないといけないんです」

厳しい言葉を並べるが、選手に感謝は尽きない。

「このチームの良さは、カーリングを知らなかった私の話も、常に聞いてくれる。私はいつも『聴く』という漢字を使いますが、その文字の通りの姿勢があります。10年前にまさかカーリングに携わり、五輪を目指しているとは思っていませんでした。今では妻も『うちの息子、娘にはカーリングをさせたいな』と言うほど、この競技に魅了されています。まだまだ通過点。私も満足していません」

ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪まで、残すは3年。理想の集団となった先に、願いはかなうと信じている。(敬称略)【松本航】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「We Love Sports」)

22年のカナダ合宿で笑顔を見せるKiT CURLING CLUBの選手たち。右から3人目がオフ・アイス・コーチの二ノ丸友幸氏(二ノ丸氏提供)
22年のカナダ合宿で笑顔を見せるKiT CURLING CLUBの選手たち。右から3人目がオフ・アイス・コーチの二ノ丸友幸氏(二ノ丸氏提供)
22年のカナダ合宿で笑顔を見せるKiT CURLING CLUBの選手たち。左から3人目がオフ・アイス・コーチの二ノ丸友幸氏(二ノ丸氏提供)
22年のカナダ合宿で笑顔を見せるKiT CURLING CLUBの選手たち。左から3人目がオフ・アイス・コーチの二ノ丸友幸氏(二ノ丸氏提供)