最近、世界で活躍する日本の若手スポーツ選手の代名詞として名前が上がるのが、松山英樹とテニスの錦織圭だろう。そんな錦織だが、先日行われたリオ・オープンで初戦敗退を喫した際、試合中に感情抑えられず自らのラケットを破壊したというニュースを目にした。


●うまくいかなくてイライラ


 PGAツアーでも、ミスショットの後にクラブをたたきつけたり破壊してしまうようなシーンを時折目にすることがある。

 今週開催するWGCメキシコ選手権の前身であるWGCキャデラック選手権で話題となった出来事がある。トランプナショナル・ドラルで開催された2015年大会で当時世界ランク1位だったローリー・マキロイは8番パー5の2打目で、アイアンショットを曲げて左サイドの池に入れてしまう。その直後、マキロイは手にしていた3番アイアンを勢いよく池の中に放り投げてしまった。

 「ついカッとなってしまった」

 ラウンド後に釈明したマキロイだったが、世界ランク1位で注目度の高い選手でもある事から、一部で非難の声が上がった(ちなみに放り投げたアイアンは、コースのオーナーのトランプ氏(現米国大統領)の指示により引き上げられ、マキロイに返された。現在はマキロイによって寄贈された3アイアンがトランプナショナル・ドラルのプロショップに飾られている)。

 錦織にしてもマキロイにしても、当然メンタルをコントロールするための知識を持っている。にもかかわらず、このように自分の感情をコントロールしきれないことがしばしば起きる。


●イライラすると何がいけない?


 「そもそもプレー中にイライラするのは、どうしてよくないのか」

 以前、アマチュアの人にメンタルコントロールの重要性について話をした際、こんな率直な質問を受けた。

 試合中にいら立つと自律神経系の交感神経が優位な状態になることで、興奮状態に陥り呼吸が浅くなったり、冷静な判断ができなくなる。結果、スイングリズムに影響を及ぼすし、戦略的なコースマネジメントができなくなってしまう。ミスショットの確率も高まり、スコアへの影響も当然出てくる。何よりイライラした態度や八つ当たりする行為はマナーとして好ましくない。こういった理屈をいくつか並べて説明した。

 しかし、アマチュアの人の悩みは率直だ。

 「でもね吉田さん。頭ではわかっているけれど、ミスショットをするとイライラしてしまうんですもん」


●プロでも結果はコントロールできない


 ではプロゴルファーはどのように感情をコントロールしているのだろうか。

 メンタルの指導に定評があるピア・ニールソンと一緒に活動し、自身もゴルフダイジェストトップ50コーチに選ばれたリーン・マリオットに話を聞いた。

 「ラウンド中に感情を抑えられない人は、ミスに対する考え方を変える必要があります。」

 マリオットは根本的な思考を改めないことには、決して感情をコントロールすることはできないという。

 「どんなに練習を積んだプロでも100%ボールをコントロールすることはできません。もちろんそれを目指して鍛錬を積むのですが、現実的にはできない。これを理解することからすべては始まります」

 この前提を理解していないと、自分の思い通りにならなかった結果に対して納得がいかず、いら立ちを覚えることになるという。

 「私たちがゴルフを良くするために理解しなければいけないのは、『いつも同じプレーをし続けることはできない』ということを理解すること。その上で、少しでもその確率を高めるため、プレーの前段階で入念に準備をするのです」


ボールの後ろで素振りをするジャスティン・ローズ
ボールの後ろで素振りをするジャスティン・ローズ

●入念な準備は継続から生まれる


 1月のソニーオープンでジャスティン・ローズのラウンドについて回る機会があった。ローズはラウンド中、ショット前に必ずボールの後ろで素振りを行う。

 テークバックではクラブポジションを確認しながら上げ、切り返しからダウンスイングでは沈み込む動作を行い、下半身で地面を押す動きを丁寧に確認していく。

 勢いを付けるのではなく、スイングのポジションごとの動きや感覚を体に思い出させるための素振りだ。

 ラウンドの際、長年ローズのキャディを務めるマーク・フルチャーに話を聞いた。

 「彼がすごいのは毎回同じスイングをすることだ。再現性が高いとかそういったことではなく、どんな状況でも自分の感情を極力抑え、投げやりにならず落ち着いてプレーしている」

 ショット前の素振りも、毎回同じプレーができる確率を上げるための準備なのだ。

 昨年、英国代表として出場したリオデジャネイロ五輪で金メダルに輝くなど、今やPGAツアーを代表する選手となったローズだが、そのキャリアは順風満帆なものではなかった。

 プロ転向後、伸び悩んだ時期もあり米ツアーでの初優勝は10年のザ・メモリアルまでかかった。

 ローズはキャリアを通じて、継続すること、我慢することの大切さに気が付いたのだろう。

 もし次のラウンドでミスショットが出ていら立ちを覚えてしまったら、ローズのように入念に準備をしたか振り返ってほしい。そしてけっして投げやりにならず、次のショットでも入念な準備を心掛ければ、ローズのような「良きゴルファー」になることができるだろう。

飾ってあるマキロイのクラブと筆者
飾ってあるマキロイのクラブと筆者

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)