先週行われたシェル・ヒューストン・オープン。大会の練習日はメジャー前週ということもあり、コーチたちはこぞって契約選手たちに帯同し会場に姿を見せる。

 メジャーチャンプのヘンリク・ステンソンはカットラインに5打届かず予選落ちとなったが、ステンソンのコーチ、ピート・コーウェンは初日のハーフラウンド、3オーバーの時点で「来週だよ。来週に向けて調整だ」と早くも切り替えていた。

 各選手たちの照準は、あくまでもマスターズだ。


ピート・コーウェン氏(左)
ピート・コーウェン氏(左)

●本命は”DJ”


 ステンソンをはじめ数々のメジャーチャンプを育てたコーウェンが、優勝の最有力候補に挙げたのはダスティン・ジョンソンだ。

 「直近の試合を見て調子がいいし、自信にあふれている。最近の勝ち方をみても本命なのは間違いない。以前は飛距離の強みを活かしたゴルフをしていたが、ショートゲームやパッティングなどの進化も目覚ましい」

 オーガスタは昔からドローヒッターが有利と言われているが、その点は今も変わらないのだろうか。

 「コースレイアウトからドローヒッターが有利と言われているが、理想はストレートボールだ。確かに左ドッグレッグはしているがフェアウェーの傾斜がきついため、ランが出やすいドローボールは狙った落としどころに止まらないリスクがある」

 それよりも、求められるのは球の高さだと言う。

 「オーガスタの攻略には高い球が必要だ。ティーショットでも高い球であればランが出にくく、狙ったところに止めやすい。さらに固く速いグリーンでは球を止める必要があるため高い球が必要になる。低い球だとランが出てしまうし、バックスピンが多くてもグリーンからこぼれてしまう。だから、その場で止まるような高い球が必要になる」

 PGAツアーメンバーの中でもトップクラスのヘッドスピードを誇るジョンソン。ドライバー、アイアンともに常に高い球で攻められるのは大きな武器になる。


シェル・ヒューストン・オープンでのジョン・ラーム
シェル・ヒューストン・オープンでのジョン・ラーム

●マッチプレーの決勝まで残ったラーム


 クリス・カーク、ハドソン・スワフォードなどを指導するスコット・ハミルトンは、デル・マッチプレーでジョンソンと決勝を戦ったジョン・ラームに注目していた。

 マッチプレーの決勝ではジョンソンに地力の差を見せつけられたが、要所で見せたアグレッシブな姿勢が、マスターズでも生きるという。

 「ラームはルーキーだけどハートが強い。今年はずっと上位に顔を出しているしね。彼はマッチプレーの決勝まで残ったことで2つのものを得た。1つは相手のプレーを見て、それを上回るパフォーマンスを出すマッチプレーの戦い方。もう1つはジョンソンとの決勝で争った経験だ。ジョンソンをドライブしたホールもあり、自信を得ただろう。一方で自らの足りないものに気づかされ、それが成長につながるはずだ」

 ラームの実力を評価したうえで、カギを握るのはやはりグリーンの攻略だという。

 「おそらくオーガスタのグリーンが速さは経験したことのないものだろう。水曜日と木曜日ではメンテナンスが入って全く別物のグリーンになる。グリーンにいかに早く適応できるかが彼の順位を左右するだろう」

 同じく注目選手としてラームの名前を挙げたのはリディア・コ、アリヤ・ジュタヌガーンのコーチ、ゲーリー・ギルクリストだ。ギルクリストもコーウェン同様、「ドローより高い球」が重要だという。

 「本命はセルヒオ・ガルシアだが、ラームには非常に注目している。ジャック・ニクラウスが何度も勝った事から、ドローボールは決して絶対条件ではない。まだ若いが高い球が打てるラームには注目だね」


●松山は5フィート以内のパッティングがカギ


 コーチや現地メディアの評価を聞く限り、やはりジョンソンが大本命だ。先週紹介したのだがやはり松山の評価が気になり、アーニー・エルスなどのパッティング専門のコーチ、マリウス・フィルマターに話を聞いた。

 「松山の武器はアイアンショット。難易度の高いオーガスタのグリーンで、ピンポイントに落としどころを狙えるというのは大きなアドバンテージだ。技術的にもパッティングのリズムが良くなっている。ストロークの際、バックスイングの最後にヘッドが止まる傾向があったが、それが少なくなってより振り子の動きになってきている」

 パッティングは一定のリズムで打てるようになると、タッチの精度が上がる。

 「ただ彼の弱点は5フィート(約152cm)以内のパットだ。数値的にもこの距離を苦手にしているというデータがある」

 ほかのコーチたちに松山の印象を尋ねると、「パッティングの精度が上がった」という声が多く聞かれた。

 PGAツアーに挑戦して4年。難易度の高いアメリカのグリーンで経験を積んだことで、ウイークポイントだったパッティングの技術もコーチたちが認めるまでに至っている。

 強みを伸ばし、弱みの部分も埋まってきた松山。その真価がオーガスタで試される。


 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)