先週に茨城ゴルフ倶楽部で行われた国内女子のメジャー初戦、ワールドレディスチャンピオンシップサロンパスカップ。レクシー・トンプソンや宮里藍など普段は米LPGAを主戦場にする選手や、ビジュアルが話題のアン・シネが出場したことから、初日の観客動員数がツアー史上最多を記録するなど、多くのギャラリーが集まった。

 もちろん大型連休中だったことや首都圏からのアクセスが良いこともあるだろうが、それを加味しても国内の根強い女子ツアー人気を映し出す結果となった。

 米LPGAツアーで戦う選手たちはこの観客の多さにびっくりしたことだろう。私は近年数回、米LPGAツアーの試合を観戦したが、そのギャラリーの少なさには毎回驚かされた。メジャー大会でもギャラリーはまばらで観戦するのに苦労した記憶がない。

 日本のツアーでは「女高男低」の人気の格差がしばらく続いているが、アメリカでは逆に完全な「男高女低」だ。いくつか要因は語られるが、その1つにアジア人、特に韓国勢の圧倒的な強さによりアメリカ人選手の活躍が見られなくなったことが挙げられる。

 もちろん現在これだけグローバルになったツアーで、選手たちの国籍に言及するのはナンセンスかもしれないが、観客は正直なのだ。最新のロレックスランキングではトップ10にアメリカ人選手はトンプソンただ1人しかいない。

キム・ハヌルのティーショット
キム・ハヌルのティーショット

●韓国人は勝つために曲げない


 そしてサロンパスカップでも優勝を遂げたのは、韓国人のキム・ハヌルだった。15年から日本ツアーに参戦しているキム・ハヌルは、先週のサイバーエージェントレディスに引き続き、2週連続での優勝となった。昨季まで圧倒的な強さを誇っていたイ・ボミとは同級生だが、今季の国内女子ツアーはキム・ハヌルが賞金女王の本命になるだろう。

 日米問わずツアーの上位で活躍する韓国人選手はとにかくショットが曲がらない。

 もともと韓国の女子プロの先駆けだったパク・セリがデビッド・レッドベターに師事していたことから、レッドベター理論の核である腕と身体の同調を重視したタイプのスイングをする選手が非常に多い。

 この理論の特徴はミスを極力抑えることにある。飛ばすことよりも、とにかく曲げないことに焦点を置いたスイングだ。使い古された感のある言葉だが腕と身体を一体にして「ボディターン」をすることで、再現性の高いスイングを行うことができる。

 また韓国は国ぐるみでジュニアの育成に取り組んでいる。ナショナルチームである「国家代表」が常設され、さらには「常備軍」と呼ばれる下部チームもある。韓国ではインストラクターの勉強意欲も高いため、最新の質の高い指導を受けることができる。恵まれた環境の中で小さなころから常に競争をさせることで「勝つゴルフ」の意識が備わる。その結果、曲げずにスコアメークに徹するためのスイングが作られるのだ。

レキシー・トンプソンのティーショット
レキシー・トンプソンのティーショット

●長所を伸ばす欧米のティーチング


 一方、欧米のティーチングは先に述べたレッドベター理論のように型にはめるタイプと個性を重視するタイプに分かれる。個性を重視するタイプの指導者は生徒に好き勝手に打たせているわけではなく、合理的な理由を見つけたうえでその特性を生かした指導をする。前出のレクシー・トンプソンは12歳のころから全米ゴルフインストラクターランキングで常にトップ5に選ばれる名コーチ、ジム・マクリーンに師事し才能を開花させた。

 レクシーはインパクトの時に左かかとが浮く癖を持っている。これはジュニア時代に一緒に練習を行っていた兄に飛距離で負けまいとして、より下半身をダイナミックに使った結果たどり着いた動きだ。地面を蹴り上げるように使う事で、体のエネルギーを効率よくクラブヘッドに伝えて遠くへ飛ばすことができる。

 レクシーを指導し始めたころ、マクリーンは多くの人から「伸び上がる動きはボールにミートする確率が下がるので、前傾姿勢をキープして足はおとなしくさせるべきではないか」と指摘を受けたという。だがマクリーンはこの動きを直そうとはしなかった。マクリーンはこの縦のエネルギーこそが彼女のスイングの核であることを見抜いていたという。そしてこれが現在彼女の武器である飛距離につながっているのだ。


●才能に頼る日本のジュニア


 では日本のジュニアに対する指導はどうか。欧米ではジュニア時代から専属のコーチを付けて指導を受けるのが文化となっているが、日本では親やグループ指導のコーチなどが基礎練習はさせるが、専属コーチがスイングを長期プランに沿って体系立てて教え込む事はあまりされていない。

 そのためフォームよりも球をとらえる感覚が発達し、インパクトでアジャストしにいく動きを入れているジュニアをよく目にする。タイミングが合えば真っすぐ球は飛ぶのだが、年齢を追うごとに体つきや身長も変わってくる中で、安定したスコアを残すことが徐々に難しくなってきてしまう。そうすると壁にぶつかってからスイングを変えたり、プロになってからスイングを変えたりする必要が出て、キャリアにとって大きなリスクになるのだ。

 活躍する選手の低年齢化が進む女子ゴルフツアー界では10代半ばでスイングが完成していることがトップ選手になるための必須条件となっている。日本人が今後世界レベルで活躍するためには、本能や経験に頼った部分だけではなく、良い意味で「作られた」部分を感じさせるスイングが必要なのではないだろうか。

マクリーン氏(右)と筆者
マクリーン氏(右)と筆者

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)