今季メジャー初戦のマスターズでは、スペインのセルヒオ・ガルシア(37)が悲願の初優勝を遂げた。

 「メジャーに最も近い男」言われ続け、その座を逃したこと通算73回。実力は十分と言われ、ルーキーイヤーにあたる1999年の全米プロゴルフ選手権をはじめ、メジャーでの2位フィニッシュは合計4度を数える。


●メジャーに最も近い男と言われ続けて


 そんなガルシアがこれまでメジャーで優勝できなかったのは、悲運としか言いようがないだろう。こんな言い方をしては元も子もない気がするが、逆にガルシアにはそれだけ優勝する条件がそろっていたということだ。


ジム・マクリーン氏
ジム・マクリーン氏

 「ガルシアがメジャーで勝つことができなかったのは、ほとんどが運やタイミングの悪さが原因だ」

 かつてトム・カイトやレキシー・トンプソン、キーガン・ブラッドリーなど多くのメジャーチャンプを指導してきたジム・マクリーンは、ガルシアのゴルフについてこう語った。

 「彼はタイガーの最盛期に現れた。”El Nino”(エルニーニョ=神の子、という意味の彼のニックネーム)は、素晴らしいアマチュアで、そのプレーは鮮烈だった。プロになってからも順調に実力を伸ばし、世界で最も優秀なショットメーカーの1人となった。パットが1つ入れば、2007年の全英オープンでも勝ったし、これまで勝てなかったのは本当に悲運だったと思う」

 プレー以外の部分での行いが非難されることもあったガルシア。しかし、ヨーロッパ代表選手として出場したライダーカップでも、ツアーと変わりない活躍を見せメンバーからの厚い信頼を受けた。2016年10月に米国ヘイゼルティンナショナルGCで開催されたライダーカップでも勝負強いプレーを見せチームを牽引した。

 「ライダーカップでも彼はいつもトップクラスのパフォーマンスを出していた。大舞台に弱かったわけではなく、メジャーに関しては、勝てるべき試合で不運が続いただけだ」


●優勝候補の中心選手になった松山


 マスターズを制する前のガルシアと同じように近年「メジャー初優勝が待たれる選手」と言われているのが松山英樹(25=LEXUS)だ。松山はPGAツアーに参戦4年目。ここまで通算4勝を挙げ、直近では世界ランクを3位まで上昇させた。成績面でも、PGAツアーのコーチたちに話を聞いても、これまでの日本人選手のなかで最もメジャー優勝に近い位置にいることは間違いない。

 ガルシアに比べてまだキャリアは浅いものの、2016年の全米プロゴルフ選手権で4位に入るなどメジャーでも上位に名を連ね、経験値も溜まりつつある。

 プレーの面でもガルシアと類似点があるというのは、前出のマクリーンだ。

 「2人はともに素晴らしいショットメーカーだ。アイアンの精度はともにPGAツアーでもトップクラスだろう」

 そのショット力の影となってなかなか見えづらいが、ショートゲームの技術力の高さにも共通点だという。

 「40ヤード以内のウェッジショットの精度は目を見張るものがある。2人ともに平均ストロークが上位に位置しているのは、グリーンを外した際のリカバリー力に優れているからだ。メジャーではプレッシャーがかかる分、どんな選手でも普段通りのプレーができなくなり、グリーンを外すことも多くなる。その際にいかにリカバリーしてスコアを拾っていくかが優勝への確率を高くしていく」

ジム・マクリーン氏の施設に飾ってあるスイング写真
ジム・マクリーン氏の施設に飾ってあるスイング写真

●役者ぞろいの全米オープン


 今年の全米オープンはアメリカ北部ウィスコンシン州のエリンヒルズGCで行われる。全米オープンも含めPGAツアーでもトーナメントの開催のない比較的新しいコースだ。

 特徴はイギリスのリンクスを彷彿とさせる自然を生かしたレイアウト。コース間に高い木がほとんどなく、選手は常に風を意識しながらのプレーになる。コースの両サイドにはフェスキューが生い茂り、全英オープンの開催コースを彷彿とさせる。全長7800ヤードと一見、飛距離勝負となりそうだが、本場リンクスのように地面か固くうねっているため、距離もさることながら、フェアウェーの一部をピンポイントに攻めていくショット力も求められる。

 メジャーの中でももっともスコアが伸びにくいとされる全米オープン。マクリーンの挙げたように、ショット力とグリーンを外した時のリカバリー力が試される大会となりそうだ。

 「メジャーで勝てない男」の称号を返上し、マスターズに続く優勝を目指すガルシア。そのマスターズで優勝候補とされながら、直前の怪我で出場を辞退したダスティン・ジョンソン。他にも開催コースと同じような環境でゴルフを覚えたローリー・マキロイなど、役者ぞろいの大会となる。

 すでにメジャーを制した猛者を相手に、松山が念願のメジャー制覇に挑む。

今年のマスターズでの松山英樹
今年のマスターズでの松山英樹

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)