今季のマスターズ直前、たくさんのコーチに優勝候補の予想を聞いた中で、セルヒオ・ガルシア(スペイン)の優勝を言い当てたのは、ゲーリー・ギルクリストだけだった。


●ガルシアのマスターズ優勝を言い当てた男


 ギルクリストはアリア・ジュタヌガーン(タイ)、フォン・シャンシャン(中国)などを指導する、女子選手の指導に定評のあるコーチだ。現在は昨年の12月にデビッド・レッドベターとコンビを解消したリディア・コ(ニュージーランド)のコーチも務めている。

リディア・コ(右)を指導するゲーリー・ギルクリスト氏
リディア・コ(右)を指導するゲーリー・ギルクリスト氏

 ギルクリストはガルシアのショット力を高く評価していた。パッティングに難がある事を理解しつつ、それを上回るショットの精度がマスターズ優勝のカギになると読んだのだ。

 「ガルシアとヒデキ(松山)はショット力に優れている。左右のブレ幅の少なさも強みだが、縦の距離の精度もまた素晴らしい」

 メジャーともなると勝負どころでアドレナリンが出て、想定よりも距離が出すぎてしまうことがあるが、そういったことも含めてショットの安定感は群を抜いているという。

 これらは技術的な話だが、その技術をコントロールするメンタルが最も重要な要素だという。


●技術をコントロールするメンタル力


 「メジャーを勝つ選手は、メンタルのコントロール能力が非常に高い」

 ギルクリストが指導するアリア・ジュタヌガーンは、ゴルフ後進国タイの選手だ。米ツアーに挑戦している外国人選手でも、先駆者や同じ国の選手がいる日本人や韓国人とは違い、決して恵まれた環境ではなかっただろう。そんな中でも11歳11カ月という若さで米ツアーの予選を通過した。そしてそれから10年後、21歳で全英女子オープンを制する。

 フォン・シャンシャンもまた、若くして異国の地での挑戦を選んだ。アマチュア時代、中国国内の最高峰の大会で3連覇を遂げ、その後、日本ツアーで腕を磨く。そして20代前半で、日本女子オープンと米LPGAのメジャー大会であるウェグマンズLPGA選手権を制した。

 ともに若くして海外ツアーに挑戦して結果を残している。言葉や習慣、食事などあらゆる面が自由ではない環境において、決して技術力だけでつかみ取ったものでないことは想像に難くない。

 「ガルシアはこれまで『勝者の心構え』を一度たりとも、持ったことがなかった。彼のキャリアの前半では自分の不十分なパフォーマンスに対して、言い訳や文句を言い続けるような選手だった。しかし彼は変わった。自分をコントロールできるようになったんだ」

 これまで幾度もメジャー優勝に導いたコーチは、ガルシアの精神面の成長にも着目していたのだ。


●勝てる選手を探し出す嗅覚


 コーチは選手を勝たせるのが役目だ。教えている選手が勝てば、コーチも注目されるし、契約をしたいという選手も増える。

 そのため契約してから勝利までの指導ももちろん大事だが、契約をする前にそのプレーヤーが「勝てる選手」なのか見極める眼力も大事になる。いくら時間をかけたところで、今以上の伸びしろが少ない選手もいるし、そのコーチとの相性も大事になる。

 ギルクリストは、この勝てる選手を見極める嗅覚に優れたコーチと言えるだろう。

 「技術は時間をかければ成熟していくが、自分をコントロールするメンタルやゴルフに対するマインドは、ある程度備わっていないとプロゴルファーとしてキャリアを積み重ねていくことは難しい」

 ギルクリストが選手を見る際は、経験や技術的な能力よりこういったメンタル部分に注目をすることが大事だという。アリア・ジュタヌガーンやフォン・シャンシャンは若いころからこういったメンタル面が備わっていた選手と言えるだろう。


●アマチュアも見習うべき姿勢


 ある程度ゴルフ歴が長くなってくると、練習場では「それっぽいショット」を安定的に打てるのに、スコアが伸び悩む時期がやってくる。これはしばし「100の壁」や「90の壁」などとも言われる。こういったスコアの停滞期を乗り越えるには、メンタル面での成長も必要だ。

 「メジャーを勝つ選手は結果が出ない時期でも、目標に向かって現実的で計算された計画を立てる。それは計画性のない夢(目標)は、偽りの希望だということを知っているからだ」

 最終目標のために計画性を持って練習に励むことは、プロ、アマチュア関係なく重要なことだとギルクリストは言う。目標を達成するまでのプロセスを知らない場合、適切な計画が立てられず行き当たりばったりになってしまいがちだ。自分自身で計画性を持って取り組むことができればベストだが、勝ち方を知っているコーチと一緒に計画を立て、一緒に取り組んでいくこともよいだろう。

 今スコアの壁にぶつかってしまっているアマチュアは、我慢するメンタル力を鍛えるのと同時に、計画性を持ってゴルフに取り組むと早くスコアの停滞から早く抜け出せるかもしれない。

米フロリダ州のゲーリー・ギルクリストアカデミーでギルクリスト氏(右)と筆者
米フロリダ州のゲーリー・ギルクリストアカデミーでギルクリスト氏(右)と筆者

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)