16番からの3連続バーディーはタイガー・ウッズの全盛期を思わせる圧巻の勝利だった。

 6日に終了したブリヂストン招待。7アンダーで首位と2打差に付けた3日目終了時には「何が良かったかわからない」とおどけた松山英樹(25=LEXUS)だったが、好スコアの一番の要因は、アイアンショットだったのではないだろうか。


●難コースをねじ伏せたショット力


 会場となったファイヤーストーンCCはフェアウェイが絞られたレイアウトだったこともあって、大会を通じて約半分の49%がファーストカットやラフからのショットになった。そのラフは洋芝で粘り気があるうえ、ボールが隠れるほどしっかりと伸びていた。ラフが深く生い茂った場所で抵抗を確かめるため少し力を入れて蹴ってみたが、これが足を振りぬくことができないほど強い。

 そんな”屈強な”ラフからでも、見事なコントロールで幾度もピンに絡めるショットを見せた。下半身で生み出したエネルギーを使った、腰から上の高速回転は、他に類を見ない速さだ。腕の力ではなく、体の大きな筋肉を使ったスイングは、4日間通してもラフに負けることなく、スコアメイクに大きな役割を果たした。

 今大会、300ヤード超えのティショットを40ホール以上で叩き出したマキロイと比べても、目視で比較できるほどダウンスイングからフォローの回転力が秀でている。

 最終日、16番のパー5でセカンドショットを右に曲げるも、ラフからショートアイアンで見事にフェードをかけて、ピンまで105ヤードの絶好の位置につけてみせた。腕の動きが多い打ち方だとラフに負けたり、スピンコントロールの難易度が上がる場面だが、持ち前の体を大きく使ったスイングでピンチをチャンスに変えたのだ。


●数値が示す松山の強み


 PGAツアーでは出場選手のティショットからパッティングに至るまでの、全ショットデータを計測をしており、そのデータをもとに各ショットの貢献度も算出をしている。コロンビア大学ビジネススクールの教授、マーク・ブローディが開発したラウンド内容を可視化するショットリンクというシステムだ。

 その中にショット(ティショットを含む)が、どれほどスコアに貢献したかを示す「Strokes Gained Tee to Green」という項目がある。松山はその項目において、2日目から最終日までトップを記録した。

 そしてこの指標のほかにもう1つ、松山が全体のトップだった項目がある。アプローチの貢献度を示す「Strokes Gained Around Green」だ。

 今回それぞれ2位と3位につけたザック・ジョンソンとチャーリー・ホフマン。いずれもPGAツアーに長年参戦するベテラン選手だ。松山は難コースのグリーン周りにおいて、この経験豊富な2人の選手に大きな差をつけているのだ。


◇「Strokes Gained Around Green」の比較

 松山英樹 1.456(1)

 ザック・ジョンソン 0.152(30)

 チャーリー・ホフマン -0.151(48)

 ※数字が大きいほど、スコアへの貢献が大きかった事を示す。

 ※()内は当該項目の順位。


 今回、フェアウェイサイドのラフと同様に、グリーン周りも粘り気のある洋芝の長いラフが茂っていた。さらにはグリーン面のアンジュレーションがきつく、それが相まってコースの難易度はかなりハイレベルだったと言える。

 最終日の2番、チップインイーグルを奪ったアプローチ。ボールはラフの上に止まっており、ヘッドがボールの下をくぐる危険もある状況だった。松山は小さな振り幅でパンチが入ってしまうこともなく、下りの難しいラインにボールを運んでいった。

 会見で口にした「少しずつ力がついてきた」という実感は、こういった技術的な引き出しが増えてきているという手ごたえから出たものではないだろうか。

 ジュニア時代から松山のスイングを撮るツアーカメラマンは、「昔からショットは一級品だったが、アプローチがずば抜けているというイメージはなかった。アメリカに来てからグリーン周りでも凄みを感じるようになった」という。

 松山はPGAツアーの選手の中でも練習時間が長いことで有名だ。トーナメント会場のアプローチ練習場で遅くまで練習する姿をよく見るが、そういった努力が着実に実を結んでいる。


●伸びしろはパッティング


 同様にパッティングの貢献度をあらわす「Strokes Gained Putting」の項目では、全体の15位だった。

 「(練習日の)火曜日に届いて、打ってみたらいい感じだったという」マレット型パターとの相性は良いようだ。「ショットからパッティングも含め徐々に良くなり始めている」と語る通り、まだまだ精度は増してくるだろう。

 PGAツアーの賞金ランキングで1位になり前週に優勝したことで、今季最後のメジャー、全米プロゴルフ選手権では優勝候補の筆頭になった。メジャー級の難コースで抜群の切れを見せたアイアンショットと、アプローチをみたギャラリーや日本のファンは、期待をせずにはいられないだろう。

 試合後、メンタルコントロールについての質問に「自分に期待せずにやったらよかったので、来週(全米プロ)も期待せずにやったらいいのかな」と答えた松山。そんな本人の気持ちとは裏腹に、日本のファンは今週も早朝から、日本人初メジャーチャンピオン誕生の大いなる期待をもって画面にくぎ付けになるはずだ。


 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)