新興メーカーPXGの魅力を探るべくアリゾナ本社を訪れた吉田。創業者のボブ・パーソンズ氏に会う事ができたのだが、話を聞こうとしたところ即席のフィッティングが始まってしまった。いまや米国で注目度NO・1クラブメーカーとなった、PXGのフィッティングとは…。

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●オーナー自らフィッティング


 ちょっとした冗談のつもりだったが、ボブ・パーソンズが快諾してくれたので私は彼のフィッティングを受ける事になった。フィッティングはオーソドックスな方法で、最初に何球かドライバーで打ってみて、クラブを調整しながら理想値に近づけていく。


パーソンズ氏(右)のフィッティングを受ける筆者
パーソンズ氏(右)のフィッティングを受ける筆者

 PXGが注目を集める理由の一つに「クラブの調整能力の高さ」がある。近年、カーボンシャフトの性能向上に伴って、アマチュアの間でもスイングに合ったクラブを選択するフィッティングが一般化してきた。またウッドを中心にロフトやライ角を自ら変えられる調整機能付きのモデルも多くある。PXGのクラブの特徴はヘッドの各所に配置された重りで、もっともスイングに合ったクラブが作れるようになっていることだ。

 最初に計ったドライバーの平均飛距離は280ヤードだった。

「ヒロ、これを300ヤードまで伸ばしてみせるよ」とパーソンズ氏。

 シャフトやウェイトを何回か変え、数値を確認しながら打っていく。その場ですぐに変更できるのがPXGのクラブの強みだ。まさに超高速PDCA! 経営者としての成功を収めたパーソンズ氏の考えが、こういったところに活かされているのかもしれない。

 その後も、「打つ→測る→クラブの調整」が続いた。時間にして30分ほどだが、その間パーソンズ氏は実に熱心にフィッティングをしてくれた。発する言葉からクラブへの知識の深さと、ゴルフやクラブへの愛が伝わってくる。最終的に300ヤードを計測ができたとき、喜んでいたのは私より彼のほうだった。

 「ヒロ、最高のクラブができたな。これは私からのプレゼントだ!」

 パーソンズ氏は発売前のプロトタイプモデルのドライバーを日本に持って帰るようにと手渡してくれた。パーソンズ氏の豪快さと、人を喜ばせようというサービス精神に感銘を受けた。


●フィッティングにかけた金額は年間3000万円以上


 パーソンズ氏はもともとクラブの設計家やプロのプレーヤーだったわけではない。言ってしまえば「ただの」ゴルフ好きのアマチュアだ。

 「父がシングルプレーヤーだったので子どもの頃にプレーしたことはあったけれど、裕福な環境ではなかったこともあって、長くゴルフからは離れていたんだ」


PXG社長室でのパーソンズ氏
PXG社長室でのパーソンズ氏

 パーソンズ氏が再びクラブを握ったのは、立ち上げた会社が軌道に乗った30歳を過ぎてからの事だった。

 「何人かの仲間と一緒にスコアをよくするために、たくさんの努力をした。自分にマッチしたクラブの探求もたくさんしたよ。ゴルフに関して非凡な才能があるわけではなかったから、とにかくいい結果を出すために多くのクラブを試した。ビジネスと一緒で、もっとも結果の出るものを求めて常にトライし続けていったんだ」

 スコアアップのためのフィッティングであれば、多くのアマチュアが行っているが、パーソンズ氏のそれは、ある意味で常軌を逸していた。

 「PXGを立ち上げる前まで、私はフィッティングに年間3000万円以上のお金を費やしたよ。だいたいの人には信じてもらえないんだけど、領収書をかき集めて計算をしてみたんだ(笑)。そんな自分の経験から、自分にマッチしたクラブを探すことは、ゴルファーにとって非常に重要な事だと思ったんだ」

クラブへの並々ならぬ熱意を持ったパーソンズ氏は、ある日、知り合いのクラブ開発エンジニア、マイク・ニコレットとゴルフクラブの開発に関して議論を交わした。

 「私が、クラブづくりに大変なことは何かと聞いたら、マイクは『時間、費用、規定を守るのにとっても苦心する』と言ったんだ」

 そこでパーソンズ氏は「時間と開発資金をどれだけ使ってもいいから、最良のものを作ってみないか」と提案したという。その後マイク・ニコレットは当時勤めていたクラブメーカーを辞め、PXGの立ち上げに参画する事になる。

 現在PXGの製品は他メーカーのものと比べ高額ながら、アマチュアの間でも高い人気を誇っている。遠く、インドからプライベートジェットに乗ってクラブを求めにやってきたアマチュアもいるという。

 最良のクラブを自分のためではなく、すべてのゴルファーのために作り始めたPXGの理念は、今でも変わっていない。コストを度外視した質の追求と圧倒的なプレーヤー目線で開発を続け、発売予定の新製品に改良の余地があれば、リリースを大幅に遅らせてでも、最善のものに仕上げてから販売を行うという。

 当初の30分間の予定を大幅に延長して熱心に語ってくれたパーソンズ氏。成功者でありながら、子供のように純粋に好きなものに没頭する一面を持ったパーソンズ氏が繰り出す次の一手もゴルファーをワクワクさせてくれるものであることは、間違いないだろう。


パーソンズ氏(右)と筆者
パーソンズ氏(右)と筆者

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。欧米のゴルフ先進国にて米PGAツアー選手を指導する80人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を直接学び研究活動を行っている。書籍「ロジカル・パッティング」(実業之日本社)では欧米パッティングコーチの最新メソッドを紹介している。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)