病気になったとき、主治医以外の医師の診察を受けて治療方針について意見を求めることをセカンドオピニオンという。病気や治療法の研究が進んで、医療の世界でも専門化が進んでおり、納得がいく治療を受けるために複数の専門医の意見を聞くことは重要なことだ。


■納得いくまで複数専門家の意見を聞く


ゴルフティーチングの分野も同様で、スイング、アプローチ、パッティングと専門分野が細分化している。ティーチング理論も高度化しており、指導者の知識レベルによって指導法も大きく変わる。そのため、レッスンを受ける側が異なるコーチから考えを聞き、どの方法が自分に向いているか判断する必要がある。


グレゴリー(左端)カーク(左から2人目)という2人のコーチがいるリード
グレゴリー(左端)カーク(左から2人目)という2人のコーチがいるリード

アマチュアは、たまたま家や会社の近所の練習場に所属しているコーチや、知人に紹介されたコーチに教わるということがあるかもしれないが、そのコーチの理論や指導法が必ずしも合っているとは限らない。自分のスイングの問題点と、そのコーチが教えるスイング理論がマッチしていなければ、いくらレッスンを受けて練習しても上達はしない。


さらに、ゴルフに対する考え方や感性が違うと、なかなかお互いに言っていることを理解しあえない。理論派のコーチが一生懸命難しい理論を説明しても、フィーリング派の生徒は理解することが難しいだろう。そんなときは、別のコーチにセカンドオピニオンを求めてみると、今までもやもやしていたことがすっきりし、自分の進むべき方向性がはっきりすることがあることがある。


■3人のスイングコーチがいるパトリック・リード


PGAツアーではコーチは分業制をとっているので、1人の選手がスイング、パッティング、アプローチなど複数の専門分野のコーチの指導を受けるケースは珍しくはない。しかし、一風変わったコーチ編成をしているのが、今季米ツアーで2月にWGCメキシコ選手権で優勝し、現在世界ランキング9位につけているパトリック・リードだ。

リードにはケビン・カークとジョシュ・グレゴリーという2人のコーチがいる。カークがスイングコーチ、グレゴリーがパフォーマンスコーチという役割分担になっているのだが、2人ともリードのスイングを指導している。


スイングコーチのケビン・カーク
スイングコーチのケビン・カーク

分業制でティーチングをする場合、他の専門分野への介入はご法度だ。スイングコーチがパッティングコーチがいるにもかかわらず、パッティングのアドバイスをすることはしない。基本的に1分野に1人のコーチという選手が多いため、スイングコーチが2人いるということは聞いたことがなかった。最初にカークとグレゴリーの本拠地を訪ねた際、2人とも「リードのスイングを指導している」という話をしていたので、リードは2人に黙ってそれぞれから話を聞いているのではないかと思ったほどだ。

だから、ツアー会場で実際に2人が並んでリードのスイングをチェックしている光景を見たときは面食らった。リードは視点が違う2人の意見をうまくスイングに取り入れているのだろう。普通なら混乱してしまうところだが、スイングの方向性について3人がしっかり共有しているから実現できることだ。


パッティングもコーチするジョシュ・グレゴリー(左)
パッティングもコーチするジョシュ・グレゴリー(左)

実は、リードは昨年もう1人スイングコーチを付けていた。それは、大御所のデビッド・レッドベターだ。昨年の春、PGAツアー会場でレッドベターにリードへの指導内容を聞いたが、体重配分やセットアップについてアドバイスしたという。これもリードが新たな視点を求めた結果なのだろう。

こうして複数のコーチの意見を聞いてもリードが混乱したりしないのは、スイングの方向性をしっかり見定めて意見を取捨選択しているからだと思う。これはコーチが1人のときも大切なことで、スイングに関するビジョンが明確でなければ、指導内容を生かすことは難しい。


スイングコーチ複数人体制といえば、ブライソン・デシャンボーもマイク・シャイとクリス・コモのスイングコーチ2人体制だ。ゴルフィングマシンに精通するシャイと、ゴルフバイオメカニクスをバックグラウンドに持つコモは同じスイングコーチだが、専門とするスイング理論が明らかに異なる。どちらのスイング理論も非常に高度で、ツアー選手できちんと理論を理解できている人はほとんどいない。しかし、デシャンボーはこの両コーチのスイング理論をうまく取り込んで結果を出している。デシャンボーの頭脳の明晰(めいせき)さと優秀なコーチを招くセンスは特筆すべきものがある。


■複数オピニオンが主流になるか


これからPGAツアーは、1分野においてセカンドオピニオンどころかサードオピニオン、理論の異なる複数の主治医体制が主流になるのかもしれない。アマチュアもセカンドオピニオンを受けることで、現在指導を受けているコーチに気が引けるかもしれない。しかし、本物の指導者は自分のプライドより、生徒が良くなることを優先するものだ。実際、PGAツアーのコーチたちは指導する選手が複数のコーチに意見を求めることを許容している。自分のゴルフを良くするためにセカンドオピニオンを受け、ベストの選択をしてほしい。

(ニッカンスポーツ・コム/吉田洋一郎の「日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)

◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。2019年度ゴルフダイジェスト・レッスン・オブ・ザ・イヤー受賞。欧米のゴルフスイング理論に精通し、トーナメント解説、ゴルフ雑誌連載、書籍・コラム執筆などの活動を行う。欧米のゴルフ先進国にて、米PGAツアー選手を指導する100人以上のゴルフインストラクターから、心技体における最新理論を直接学び研究している。著書は合計12冊。書籍「驚異の反力打法」(ゴルフダイジェスト社)では地面反力の最新メソッドを紹介している。書籍の立ち読み機能をオフィシャルブログにて紹介中→ http://hiroichiro.com/blog/