マスターズを取材した。13年大会に続いて、2度目です。読者諸兄には「うらやましい話や」と思われるやろうし、実際そうなんやけど、なかなかハードなんも事実です。

 関空から成田、成田から直行便でアトランタに飛んで、そこからレンタカーに乗って150マイル、つまり約240キロ…。ほんでオーガスタナショナルGCの、テレビの画面ではわからん高低差たるや…。「ゲレンデか!?」っちゅうツッコミの1つも入れたくなる急勾配があちこちにあって、13年大会期間中には2夜連続で左ふくらはぎが攣(つ)って跳び起きる世にもまれな経験までさせていただきました。

 ただ、今回、そんな苦労が吹き飛ぶ出来事がありました。「黒豹」こと、ゲーリー・プレーヤー(79)のガーデンパーティーにお邪魔させてもらいました。「生涯グランドスラム達成50周年記念」。パーティーに招待された人に「大丈夫だから一緒に行こう」と誘われ、厚かましくもついて行ったら…。

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 あいさつでぶっ飛んだ。

 「元気デスカ!?」

 え? 日本語ですか? しかも猪木もビックリの大声で。あ、握手してくれはった。分厚い手や。めっちゃ力強いし。

 「ベーコン、NO! バター、NO! 日本食が1番デス」

 え? 何? そないに親日家やったんですか?

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 オーガスタナショナルGCから約10マイル、とあるゴルフ場の敷地内に建つ別荘。「ほんまもんの大理石使ってるがな」と驚く豪華な建物。キリン、ライオン、水牛…故郷南アフリカの野生動物のスケッチ、写真が飾られとる。ブロンドの髪、青い瞳の方を中心に、オシャレな面々がびっしり100人ほどおった。…そんな場所で、いきなり日本語ですか?

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 夢のような時を過ごしてから、2日後。今度はオーガスタナショナルGCで話をさせてもらいました。いかに健康が大事かを強調するしぐさが、またけっさくで。おもむろに立ち上がって、今くるよ師匠みたいに右手で腹をバンバンたたき、次に机の上をバンバンたたいて自分の腹筋の硬さを教えてくれたりする。サービス精神のすごいこと。ほんまにグランドスラマー? マスターズ3勝もしてんの? NGK出たら、うけるぞ…なんちゅうアホなことを考えてたら…ゴルフの話になりました。

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 石川遼のことを話してくれはった。彼について今思ってることを、身ぶり手ぶりで教えてくれた。17歳の時、タレントのすばらしさを感じたこと。でも、今はスイングがおかしいと思っていること。立ち上がって「ゴルフのスイングの正しいトップの位置はココです」と右耳の横までグリップを上げて見せて、石川のトップの位置が背中側にズレていると指摘しはる。

 「イシカワは1カ月、トーナメントを休みなさい。デービッド・レッドベターのアカデミーに行って、1週間、スイングを学ぶ。あと3週間、そのスイングを徹底的に練習する。それだけでOKです」

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 きっと自分とレッドベターのスイング理論が合致するから、そう言わはったんでしょう。なので、別にレッドベターどうこうは問題やないんです。生涯グランドスラマーが、米国人以外で初めてマスターズに勝った人が、苦しみ、もがいている今の石川を気にかけてくれてることに、感激した。

 日本人では松山英樹のすごさばかりが目立つ今日この頃やし、ゲーリーさんも松山の可能性のすばらしさを指摘してはった。けど、世界はまだ石川のことも見てる。そう思うと、寝不足でへろへろな体に力が湧く気がした。ありがたいこっちゃなあ。【加藤裕一】