「最近、『アプローチが楽しい』って言うんですよ」


 今季2年連続で賞金女王に輝いたイ・ボミ(28=延田グループ、韓国)。7勝を挙げ、年間獲得賞金の国内最高額を更新した昨季を「これ以上はない最高の1年」と評していたが、16年も変わらず強かった。いや、進化したと言っていい。

 平均ストローク(70・0922)とパーセーブ率(91・0112%)はツアー新記録。際立つのが、小技のうまさを示すとされるリカバリー率(パーオンしないホールでパーか、それよりいいスコアを獲得する確率)の向上だ。昨季も66・5272%でツアー6位(1位はアン・ソンジュの70・9821%)につけていたが、今季は72・8606%まで伸ばし、堂々のトップだった。

 7月の大東建託いい部屋ネット・レディース。当時すでに2勝を挙げ、開幕から12戦で1度もトップ10を外していなかった。米ツアーや国内男子ツアーの取材が多かったこともあり、イ・ボミが出場する試合に足を運んだのは3月のANAインスピレーション以来。あれだけ圧倒的だった昨季を上回る強さの秘密は、どこにあるのか。久々の取材で変化を尋ねた私に清水重憲キャディー(42)が言ったのが、冒頭に紹介した言葉だった。

 清水氏の記憶には、2度目のコンビを組んだ12年11月のミズノ・クラシックが色濃く残っている。4打差から最終日に逆転負けを喫した。「気になったのは、賞金1億円を超えるトップ選手が、リカバリー率だけ突出して悪かった(12年は63・1579%で24位)。勝ちきるには、そこだと思った」。バッグを担ぐ機会が増えた13年からは「今日は少しだけアプローチの練習をしてから帰ろう」がラウンド後の口癖。練習場に連れていくのが、日課になっていったという。

 そんな“歴史”があるから、喜々としてアプローチ練習に励む姿勢が感慨深かったようだ。少しフェースを開いてみたらどういう球が出るのか、この状況ならスタンス幅を広げた方がうまく寄せられるんじゃないか…。「楽しい」から探求心が旺盛になり、引き出しも増えていく。専門誌で「プロが選ぶアプローチのうまい選手」として名前が挙がるようにもなり、それがうれしくて、さらに本人のモチベーションは上がった。もう、清水氏から練習場に誘う必要はなくなった。

 「今日は少しだけ…」と言い続けた清水氏と、相棒の熱意に全力で応えたイ・ボミ。弱点を武器に変え、2人で積み上げた勝利数は16になった。【亀山泰宏】