昨年4月14日午後9時26分ごろ、熊本を震度7の強い地震が襲った。KKT杯バンテリン・レディース(熊本空港CC、中止)に出場するため、同地に集まっていた多くの女子ゴルフ選手も被災することとなった。

 熊本市出身の青山加織(31=コンフェックス)もその1人。今月26日、JGJA(日本ゴルフジャーナリスト協会)大賞受賞の記念講演の際、当時のことを語ってくれた。


日本ゴルフジャーナリスト協会(JGJA)大賞を受賞した青山加織(写真は2017年1月26日)
日本ゴルフジャーナリスト協会(JGJA)大賞を受賞した青山加織(写真は2017年1月26日)

 青山は地震発生時、実家の高層マンションに1人でいた。地震が起きた時には自室で寝ていたが、あまりの揺れに吹っ飛ばされ、ベッドから床に転落。振り向くと、今まで自分が寝ていた場所にタンスが倒れていたという。「そのまま寝ていたら、この下にいたんだ」と思うと恐怖で言葉を失った。

 ただ、その時にはすぐにペットボトルで飲料水を確保。さらに浴槽に水をたっぷりはり、緊急用の水もたくわえた。そして食事も作り置きのものを用意して、当面は母とともにマンションにとどまる決意をした。

 ところが16日午前1時25分には本震とされる震度7の地震が再び熊本を直撃。今度は部屋のドアが開かなくなり、暗闇の中、閉じ込められた青山は過呼吸になってしまったという。「浴槽の水も揺れで全部なくなってしまっていた。1回目を上回る地震で『これは死んじゃうな』と思って」と、母とともに自宅を出ることにした。

 だが支援物資の列に並んでも、もらえるのは本当に限られた分だけ。それも自分で並ばないともらえず、高齢の人たちも疲労困憊(こんぱい)の中、列に加わらざるをえなかった。またトイレを探すのにも苦労した。そんな時、真っ先に個人的に物資を届けてくれたのが表純子(42=中部衛生検査センター)のスポンサー。長崎から食糧などを持ってきてくれたのだという。

 「それを家族や近所の人と分けました。すごいありがたかったです。お湯やガスが使えなかったので、パンとかおにぎりを食べながら1~2日過ごして。それからいろんな方から連絡がきて。『大丈夫? 』って」。ただ物資の提供を申し出てもらっても、受け取り方やそれを配る方法などが分からず、最初は断ってしまっていたのだという。

 だがもうそんな余裕もなくなり、電話で知人に相談。大阪から隙間なく物資を詰め込んだワゴン車を運転して熊本まで運んできてくれた。さらに自身のフェイスブックに「支援していただき助かりました」というコメントを掲載したところ、ファンの方から「何かできないか? 」と連絡が殺到。普段は1日1万人が閲覧するフェイスブックを、20万人もの人が訪れるようになった。

 「最初は顔も知らない人に頼んでもいいのだろうかと悩んでいたのですが、すごい数だったので、これはすごい力になるなと」。ファンやスポンサーからの支援物資を長崎の表純子のスポンサー企業経由で熊本まで送ってもらい、それを知人から借りた軽トラックを運転して配って回る活動を始めた。

 熊本の30歳の男女が「何か社会に有益なことをしよう」と結成した三益会とも連係。SNSを通じて何が足りないのかなどを情報交換し、物資のミスマッチがないようにした。1週間を過ぎ、パンを受け付けなくなったお年寄りにはレトルトの食品を持っていき、子供にストレスがたまっていると聞けばお菓子を配った。


熊本地震発生後初のツアー出場へ、練習する青山加織(写真は2016年5月3日)
熊本地震発生後初のツアー出場へ、練習する青山加織(写真は2016年5月3日)

 ある時、軽トラックのハンドルを握っていると、道端で高齢の女性がエコバックを片手に信号待ちをしていた。「どこまで行くのか聞いたら、遠い場所の名前を言うんです。80歳くらいで、大きいペットボトル1本を持って帰るのがやっとという感じで。その方の家まで水一箱を運んでいってあげたら、拝むように感謝されて。それが1番感動しました」。

 青山は地震後の体験を通じて「人間としてすごく変わりました」という。仲間のプロゴルファー、スポンサー、メーカー、ファンから膨大な量の支援を受け、「どれだけ人と人とのつながりが大事かっていうのをすごく感じました」と感謝した。さらに「東北で地震があった時に私は何をしたんだろうと思いました。そんなにすぐの行動はできなくて、自分の賞金の一部を寄付したりはしたんですけど(ほしいものは)そういうのじゃなかったんだろうなと思います」と、相手の立場に立って考えることも学んだ。

 昨年はゴルフどころじゃない1年を過ごした。それでも人の温かさに触れ「ゴルフをしたことがなかった人たちもわざわざゴルフ場に会いに来ていただいたり。『物資送りました』って声をかけにきてくださって。新しいファンの人たちが増えて感謝しかないですし、もっと頑張らなきゃと思う1年でした」という。その気持ちを糧に、今季はさらなる飛躍を遂げた姿を見せてくれるに違いない。【千葉修宏】