ほんの少しだけ、緊張がほぐれたのだろうか。松森彩夏(23)が見せた笑顔は堅苦しい作り笑いではなく、心から安堵(あんど)したほほ笑みのように見えた。

 来季のツアー出場権を懸けたファイナルQTの第3日(11月30日)。10位から出ると6バーディー、2ボギーの68で回り、通算7アンダーで首位に浮上した。30位前後までが来季前半戦(6月第4週終了)の出場資格を得るため、ボーダーラインの通算イーブンパーには7打の「貯金」ができた。もちろん、スポーツに絶対はないが、12月1日の最終日によほどの大たたきをしない限りは大丈夫だろう。そんな安心感は、言葉の節々からも感じ取ることができた。

 「あまり緊張することはないんですけれど、初日は自分の中でもすごく緊張していました。3年前にQTに出た時よりも、経験してきたことが多いから。今は、背負っているものが重い。失敗はできないので。チャレンジするということよりも、失敗できない緊張の方が大きかった」

 モデルのようなスラリとした体形で、人気が高い。応援してくれるファン、支えてくれるスポンサー。たくさんの期待が重圧となり、押しつぶされそうになっていた。11月中旬の大王製紙エリエール・レディース(愛媛)で予選落ちし、来季の賞金シード権喪失が確定した時のこと。取材の質問を投げかけることさえためらうほど、彼女は悲しげな顔をしていた。それほど絶望感に襲われていたのだろう。

 「絶対に失敗ができない」と言う今回のQTで、キャディーを託したのはコーチの江連忠氏だった。

 「良い、悪いを、しっかりジャッジしてくれる。口うるさく言われることもあるけれど、その方が自分もフラットでいられる。極限の状態だったので、良かったと思います。トップ通過するくらいの意気込みで、上を目指して、最後まで強気でいきたいと思っています」

 一緒に出場している妹の杏佳(22)は第3日終了時点で通算1オーバーの40位。30位以内を目指すには、最終日のひと踏ん張りが必要だ。姉は「人のことを心配している場合じゃないんですけどね」と言いながらも、1つ下の妹のことを常に気にかけている。

 今季はツアー32試合でトップ10入りわずか2回で、賞金ランク66位(1575万7100円)と苦しんだ。だが、16年の富士通レディースでツアー初優勝を経験するなど、ルックスだけでなく、確かな実力がある。

 QTを突破した先にある、明るい未来へ-。いつの日か、賞金女王になる姿を見てみたい。そう思うのは、私だけではないだろう。【益子浩一】