男子プロゴルフの石川遼が頭に描く未来予想図が、そのままゴルフ界の未来になる。

12月に新たなにゴルフ担当になり、真っ先に思ったことだ。まだ入り口に立ったばかりの記者に何が分かるか、と言われるかもしれないが、それほど、今年選手会会長に就任した石川の改革は明確だ。

今月16日に、埼玉・森林公園GCで行われたフューチャーゴルフツアーin埼玉を取材した。15日から2日間日程で合計スコアを競う。10人のプロが出場し、16日は埼玉県内の中高生20人とともにラウンドした。

そこでは、ゴルフでは見られない光景が繰り広げられていた。ラウンド中、プロが高校生にアドバイスを何度も送るシーンがあった。これはゴルフのルール上では違反行為。あり得ないことではあるが、この大会ではそれを認め、いろんなシーンで目にした。

しびれるプロのプレーを間近で見る。さらに、リズムからルーティン、取り組む姿勢…、高校生たちはその一挙手一投足を肌で感じ、目の前にある教科書を余すことなく吸収していく。プロは積極的に話しかけることでアドバイスを受けやすい空間を作る。さながらコース上で行う「個別指導」だ。姉妹で出場した岩井千怜(埼玉栄1年)は「プロはこんなにすごい球を打つんだと思った。パワーもレベルが違う。すべてにおいて圧倒されました。パターの練習の仕方を教わったのでさっそくやっていきたいと思います」と目を輝かせた。

石川は言う。「プロとジュニアが一緒にプレーして真剣な空気もありながら、プロの背中をみる。これが本当のジュニア育成」。プロのスイングの音、打球音、球が伸びていく音、プロにしか出せない「音」がある。よくプロ野球巨人の長嶋茂雄終身名誉会長が指導でバットスイングを表現する時、「ズバッと」などの言葉を使うが、それに近いもの。言葉で表現するのは難しいこのプロの音が、子どもたちの耳に、心に浸透し、そのまま夢になっていくんだと思う。

石川の原風景にもこの音が刻まれている。ゴルフ少年だった時。レジェンド、青木功、尾崎将司、中嶋常幸らのプレーを間近で見て、聞いた音は今でも耳に残り、指針になっている。「青木さん、ジャンボさん、中島さんのボールを今でも覚えている。音とか弾道とか、そいうことをジュニア時代は教わった」と振り返る。

同ツアーは、大相撲の地方巡業をモデルに、ジュニアの育成、ファンの拡大、地域貢献につなげる目的で、石川が発案し、今年から始まった。予定されていた7月の広島、岡山大会は、西日本の豪雨災害の影響で延期となったが、8月の新潟大会で初めて開催された。

この日、キャディーは高校生の親たちが務めた。ここにも石川の狙いがある。「普段、自分のお子さんがどれだけ難しいことをやっているのかと。ゴルフでこんなに頑張っているんだと一緒に感じてもらえたらいいなと思う」と話す。

思いは他の選手にも浸透している。この大会で優勝した大槻智春は、「ジュニアの子たちに持っている技術や考え方を伝えられたらと思ってラウンドした。今後も石川選手をサポートできれば、男子ツアーを良くしようという面もありますし、手伝わせてもらえればいい」と話した。

改革の1年目が終わった。方向性が見え、来年は「いろんなパターンをやってみたい。僕ら側から何パターンか提案して、開催してくださる方に選んでもらいたいです。柔軟に対応していきたい」とさらなる発展を目指していく。ゴルフ離れが叫ばれて久しいが、石川が振る改革の旗は確実に広がりを見せる。見つめる未来は、きっと明るい。【松末守司】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)

◆松末守司(まつすえ・しゅうじ)1973年(昭48)7月31日、東京生まれ。06年10月に北海道本社に入社後、夏は競馬、冬はスポーツ全般を担当。冬季五輪は、10年バンクーバー大会、14年ソチ大会、今年3月の平昌大会と3度取材。五輪担当を経て12月からゴルフ担当。