「こんな感覚は3年ぶりですかね。このままもう、球が打てなくなるのではないかという恐怖心と戦っていました」

ツアー通算3勝の渡辺彩香(25=大東建託)は、遠くを見つめながらそう漏らした。自分がどこへ向かっているのかも分からない。それは、真っ暗なトンネルを歩いていた過去を思い出しているようでもあった。

9月6日、茨城県北部の常陸大宮市で開幕したゴルフ5レディースの第1日。渡辺は4バーディー、ボギーなしの68で回り4アンダーの14位で発進した。60台を出すのは今季2度目。昨年から不振にあえぎ、今年はここまでツアー24戦に出場し19戦で予選落ち。80台をたたくこともあった。

12年にプロテストに合格し、14年にツアー初優勝。翌15年には2勝を挙げて年間獲得賞金1億円を突破した。まばゆいばかりの輝きを放った時期は、遠い昔の出来事になっていた。

172センチの長身から放たれるドライバーが、最大の魅力だった。それが唐突に、最大の弱点となる。

いつからか、ドライバーを持てなくなった。

「ひどかったですね。打ってみないと(球が)どこに行くか分からなくなった。右にも左にも出る。あれほど気持ち良く打てたドライバーが、気持ち良くない。その場しのぎでやるしかなくなっていました。

私、超ネガティブなんです。もう、ドライバーが打てなくなるんじゃないかと、このまま良くならないと思っていました」

ただ絶望感に襲われた。いつ復調するかも分からない。もう2度とあの球が、最大の武器が戻らないのではないか。自問自答を繰り返しながらも、ひたすらに練習し、打つことを、復活を、諦めなかった。

「やり続けてきた練習が、ようやく試合でも打てるようになってきました。今までは練習でできても、試合ではできない。

ずっと悪いなら、まだ納得できるんですけど、調子が良くなったと思ったら、また悪くなることの繰り返し。『もう、無理だ』と思ったこともありましたし、精神的にキツイ時期があった。続けてきたのは根本的なこと。突っ込まず、フェースの向きと位置を考えた」

女子ゴルフ界は、急激な勢いで若い世代が力をつける。98年度生まれの黄金世代が次々とツアー優勝を果たし、渋野日向子(20)は男女を通じ日本勢42年ぶりにメジャーを制した。渡辺が不振にあえいだこの1年間で、構図は変わりつつある。そんな現状を、冷静に受け止める。

「自分もそういう(勢いのある)時があった。早い段階で、頑張れた。今の若い子は、みんなうまいですよね。私は、久しぶりにストレスがなくショットが打てることがうれしいです。今までは不安でしかなかったけれど、今は100%で打てる。不安はゼロです」

16年7月の全米女子オープン最終日。最終18番パー5で勝負に出た第3打を池に落とし、リオ五輪出場を逃している。悔し涙に暮れたあの夏から、3年の月日が流れた。

当時、目の前にあった五輪出場は、今は、はるか遠くにある。それは、苦悩と葛藤の日々が長かったことを物語っている。

それでも、彼女にはまだ、枯れることのない夢がある。賞金シード権復活と、4年ぶりのツアー優勝へ。

「気持ちが前向きになった。状態が良くなると、すぐに結果が欲しくなりますね」

9月19日で26歳になる。まだまだ、老け込む年齢ではない。【ゴルフ担当=益子浩一】

優勝トロフィーを掲げる渡辺(2015年11月1日撮影・丹羽敏通)
優勝トロフィーを掲げる渡辺(2015年11月1日撮影・丹羽敏通)
渡辺彩香
渡辺彩香