渋野日向子が苦しんでいる。海外遠征を終え、国内復帰戦となった三菱電機レディースで、6月の“開幕戦”アース・モンダミンカップから国内2戦連続の予選落ちを喫し、3戦目のTOTOジャパンクラシックは30位に終わった。
コロナ自粛期間にスイングの再現性を高めるため、従来のワイドスタンスを狭めるなどした改造に取り組んだこともあり、当初はショットの不調がクローズアップされたが、最近の焦点はパットにある。渋野の国内ラウンド(R)数はたった3試合の計7Rと規定R数に満たない。だから、あまり参考にならないが、データは確かに悪い。
平均パット数(パーオンしたホール)1・8587は、部門別ランク69位相当。1Rあたりの平均パット数30・7143は73位相当。昨季は1・7582で2位、29・1144で5位だった。
渋野がしばらくパットに苦しむのでは-。アース・モンダミンカップ時点で、あるベテラン女子プロは、そう予測していた。
「みんな、ショットやスイング改造のことをいろいろ言ってるけど、私は何よりパットにビックリした。開幕前の練習グリーンで見た時に“え? 何で変えちゃったの?”と思った」。
スイング改造に連動してか、スタンスが狭くなり、アドレスは前傾が浅く、アップライト気味に-。そう感じたという。より上のレベルを目指すため、渋野、指導する青木コーチが決めて、取り組んだことだろうから「長い目で見れば、今までより良くなるかもしれない」と否定はしなかったものの「昨年あれだけ入ってたのに…」と首をかしげていた。
ゴルフにおいて、ボールからターゲットまでの距離が最も短く、最も体を動かさない、最も地味なショット(と言っていいかどうかはさておき)が、パットだ。ただ、その一見単純に見える作業の中にライン読み、距離感の把握、ストロークの精度などデリケートな要素が凝縮されているし、プレーヤーとグリーンの相性もある。ボールをカップに入れる最後の作業でもある。ショットがキレキレでも、チャンスを決められないとダメ。ショットが普通でも、7、8メートルがポンポン入れば、ビッグスコアになる。だから、ゴルフにおいて最もデリケートで、最もストレスがたまるのがパットと言っていいだろう。
昔、日本通算50勝のプロと日米通算62勝のプロのやりとりを聞いた。
不動裕理 岡本さん、パットが入りません!
岡本綾子 自分が思ったところに打ってる?
不動 はい。
岡本 じゃあ、よし。今のままでいい。
もう1つ。ある女子プロが、パットの名手・谷口徹から聞いた言葉がある。
「パットは入ったもん勝ちや」。
練習して技術を磨く。やることをやった上で結果が伴わないなら、仕方ない。名手たちは、そういう境地にあるのではないか。
渋野はまだプロ3年目の21歳だ。よく入る日が、少しでも多くなるように、やるべきことは練習しかない。半年後、1年後、ひょっとしたらもっと先になって、気がつけば、入っても入らなくても納得のいくパットが増えていた。気の遠くなるような積み重ねの果てに、岡本や、谷口が口にした言葉を吐く資格を手にしてほしい。【加藤裕一】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)